Interior Idea
〈行燈〉14 和紙を通したやわらかな灯り
日本の灯り文化の先駆け
「行燈(行灯)」──若い世代には難読というだけでなく、それがどういうものかもわからないかもしれません。
行燈(あんどん)というと映画や時代劇で見るような、和室を仄暗く照らす四角い灯り、そんなイメージを持つ人も少なくないでしょう。実際、行燈が普及したのは江戸時代。当時はろうそくが極めて高価だったため、庶民は菜種油やイワシ油などを燃料としていました。
油を注いだ火皿にい草や綿糸などの灯心を浸して点火し、和紙を貼った竹や木の枠で四方を囲ったものが行燈。当時の明るさは豆電球程度のものでしたが、江戸時代の終わりに石油ランプが輸入され広く普及する明治時代まで、日本の暮らしに深く根付いた灯りでした。
素材も技術もデザインも進化
時代と共に照明の技術も住宅の様相も変化します。
菜種油の行燈からより安価な石油のランプに、それが昭和には白熱電球となり、現在はさらに明るく消費電力が少ないLED電球へ。和室のある住まいが少なくなるにつれ和風照明も少なくなりましたが、その光のやわらかさや落ち着いた雰囲気は近年和室と共に改めて見直されています。
和紙を通した光は均一に拡散し、間接照明のように穏やかな光になります。陰翳のグラデーションは空間にドラマチックな奥行きを感じさせ、リラックスできる心地よさを演出します。また、竹や木材で作られていた枠も、ステンレスなど金属素材のレーザー加工をはじめ、現在はさまざまな素材と技術でデザインの幅も広がりました。
和紙ならではの繊維の影が洋室に日本的なテイストを付加したり、金属枠のシャープなフォルムで畳や障子の部屋を和モダンのインテリアにするなど、照明はその部屋のイメージを左右するもの。行燈は和と洋のバランスを取る際にも加えやすいアイテムです。
既成概念を捨てると伝統も自由に
行燈は「行く燈り」という名のとおり、もともとは持ち運ぶものでしたが、後に畳や床、卓上に据え置きするものが主流になりました。
素材や加工の技術が進化し、今は吊り下げ型のペンダントライトや壁に取り付けるブラケットライト、また屋外のガーデンライトや店舗の看板としても使われています。伝統的なものはただ古いものではなく、時代や人が求める形に変化しながら受け継がれてきたものにほかなりません。
「行燈は和室に置くもの」といった既成概念さえなければ、洋の東西や部屋の内外も問わず、そのやわらかな光が癒しの空間を包み込んでくれるはずです。