ZEN CLUB

2022年 12 月号 Number. 548

<ZENグループの今>プロジェクトing

静岡県静岡市 大成ビルド株式会社

女性社員らのアイデアを取り入れWebを活用した集客へ

住宅総合展示場からの脱却

インターネットの普及や、コロナ禍による働き方や暮らしの変化などから、さまざまな業種で従来のビジネスモデルからの発想の転換が求められています。住宅会社にとっても同様で、経済環境や消費者行動が大きく変わる中で顧客を獲得していくには新しい感性が必要です。そのような中、静岡県静岡市に本社を構えるZENグループ・大成ビルド株式会社(代表取締役社長・津村聡)は、いちはやくWeb主体の広報を強化し、SNSの活用を進めてきました。改革のきっかけや、その取り組みについてお話を伺いました。

時代の変化が後押し

ZENグループの一員として2021年に大成ビルドが設立されて以降、前身の大成住宅から40年以上にわたり培われてきた大成ブランドを、さらに発展させるべく、津村社長は新しく斬新なアイデアを積極的に採用しています。

新会社設立時に際して出てきた課題の一つに「総合展示場からの脱却」がありました。

「インターネットが普及していない時代は、お客様と出会うきっかけの場として総合展示場はなくてはならない場所でした。大成住宅を知らないお客様でも、モデルハウスにふらっと入ってきてくれます。総合展示場での出会いから商談、成約にいたるケースも多かったんです」(津村社長)。

一方で出展にはモデルハウスの建築・管理費用から、展示場の家賃、人件費、光熱費などかかるコストは莫大です。今はまずインターネットで検索してから行動するお客様が多く、社内では「もはや総合展示場はお客様との出会いの場とは言えないのではないか」という疑問が芽生えていました。

さらに総合展示場からの脱却を後押ししたのは、他ならぬお客様の声でした。出展する以上は他社と比べて見劣りしない、最高ランクのモデルハウスを用意するのは当たり前。しかしお客様からは「リビングが広すぎて参考にならない」「豪華すぎる」といった率直な声が相次いだのです。

「営業担当だったころは、私も1億円を超える豪華な展示をお客様にお見せしていました。でもお客様のニーズとはかけ離れた住宅を紹介していることに違和感が拭えなかったんです。本当はもっと現状に沿った、リアルサイズのモデルハウスを見てもらうべきなのではないかと」(津村社長)。

そして社会や人々のニーズの変化を検討した結果、固定概念を捨てて展示場からは全て撤退。住宅を見てもらう機会は完成見学会に集中しようと方針を変えることとなりました。

“魅せる”写真で集客を

一方、通りすがりの人にも営業をかけられた展示場とは違い、不定期に住宅地で開く完成見学会にお客様を誘導するには、広報面の強化が不可欠でした。大成住宅時代はテレビCMもたくさん出していましたが、現在はテレビ離れも進みコストに見合う効果が期待できません。

「SNSの活用とインターネット広告に舵をきりました。パッと見たイメージが良くなければ、特に若い方には響きません。写真撮影や画像の選定、SNSの運用は若いスタッフ、特に女性社員の感性を取り入れた方が良いと考えました」(津村社長)。

そこで佐藤美希さんに白羽の矢がたちました。
「高校時代は写真部に所属し、大人になってからも旅先で一瞬一瞬の感動を写真に収めてきました。以前から、当社の住宅を魅力的な写真を使ってPRをしたら注目してもらえるのではないかと思っていたので、社長が声をかけてくれたのはうれしかったです」(佐藤さん)。

 写真は好きだったものの、SNSを本格的に運用した経験はあまりなかったため、最初は手探りでスタート。Web担当の稲葉伸治さんらと、どうしたらたくさんの人に見てもらえるかディスカッションしながら、見る人の目線の位置を意識したり、空間が広く見えるように工夫したり、試行錯誤を繰り返しました。何百枚も撮影した中から吟味しほんの数枚まで厳選します。特に注意しているのは傾いた家に見えないよう、水平に歪みなく撮影すること。また、自然光による明るさで雰囲気の良い写真になるよう、日射が入る時間帯を選んで撮影に出向くなど工夫しています。

もちろん単に見栄えが良いだけではなく、物件の特長やおすすめしたいポイントをいかに伝える写真になっているかが重要です。そのため、ほかの社員にも写真を見てもらって意見を聞くことは欠かせません。「第三者が見たときにどのような印象を持つかが大事なので、ほかの人の意見はとても参考になります」(佐藤さん)。

ドローンを飛ばして動画も自前で

インターネットを活用した集客は、稲葉さんが中心になって方法を考えていきました。

「住宅展示場への出展をやめたあと、どう集客していくかについて社内で随分と話し合いました。その中で、展示場を持たずインターネットを使った成功事例を参考にすると、ランディングページ(LP)を活用することになりました」(稲葉さん)。

LPとは縦に長い1ページからなるホームページ(HP)のこと。通常のHPはトップページから知りたい情報を探して別のページへ遷移しますが、LPは1枚の長いページに伝えたい情報が全て盛り込まれているのが特徴です。また、物件ごとに最適なデザインで製作できるので、お客様にリーチしやすいメリットもあります。

「“大成ビルド”という言葉で検索してHPを探してくれる人はほぼいません。お客様と当社の接点は、まずインターネット広告からLP、そしてHPへという流れを作っていきました」(稲葉さん)。

またYouTubeの動画も自社で製作。例えば津村社長自身がカメラを装着してバイクを運転し、自由度の高いガレージが付いた住宅をPR。ドローンの操縦免許も持つ津村社長が撮影した映像も盛り込まれています。

今後について佐藤さんに尋ねると「その家で暮らす様子をもっとイメージしてもらえるよう、人物を入れた写真や動画を増やしたいです。現状は私がモデルになった写真が多いのですが、本当はその家に暮らすお客様に登場していただけたらもっと良いと考えていて。当社の家に満足されたら撮影にも喜んで協力していただけるでしょうし、お客様自身のSNSでも紹介してくれると思うので、これからもお客様の満足度を高め、ずっとファンでいてくれる信頼関係を築いていきたいです」と熱を込めて語ってくださいました。

若手や女性の感性をどんどん取り入れる

住宅展示場関連の費用と広告費をコストカットできた結果、手が届きやすい価格で注文住宅が建てられると評判になり、顧客満足度は97.4%と高まりました。“土地を探して注文住宅を建てたい”という若い世代のニーズが高まっているようです。

また、何事においても効率が求められる時代。例えば新築時に、洗濯物を「洗う・干す・取り込む・アイロンがけ・たたむ」が一部屋で完結する「ランドリールーム」の設置を希望するお客様が増えていると言います。そしてその情報も、SNSで短く編集された動画やYouTubeを倍速で見て得るスタイルが一般化しています。

「若いお客様にはベランダを希望しない方もいて、最初は洗濯物をどこに干すのかと驚きました。費用をかけるならベランダの防水よりランドリールームをということなんですね。時代の流れを感じました。若手や女性社員の意見・アイデアを積極的に取り入れていかなければお客様のニーズに沿うことはできないでしょう」(津村社長)。

まだまだ続く新しい取り組み

さらに新しい試みとして、メタバース(3次元の仮想空間)内で住宅を展示する方法も検討しています。

大学生も含む研究チームと共同で開発していて、若い感性やエネルギーに刺激を受けながら「お互いに勉強中」だと津村社長は話します。一方、実際に足を運んでモデルハウスを見たいというニーズも変わらずあるので、今後は住宅地の中にいつでも見学できる常設のモデルハウスを建築する計画です。

イヌやネコとの快適な暮らしを提案する冊子『ワンニャホー』の発刊もスタート。地域の店舗やイベント情報も合わせて掲載しており、「さまざまな業種とコラボレーションするきっかけとして、活用したいと考えています」(稲葉さん)。

2022年9月の台風で静岡県一帯が浸水や停電被害を受けた際は、相談や対応に奔走しました。「今後さらに防災に関する取り組みは強化していかなければいけないと考えています」と津村社長は語り、お客様第一の姿勢でこれからも新しい挑戦を続けていく決意です。

大成ビルド株式会社