ZEN CLUB

2022年 10 月号 Number. 546

不動産・建設関係のトレンド

戸建からマンションへ、地方から都市部へ 令和シニアの「住み替え」意識

不動産・建設関係のトレンド 戸建からマンションへ、地方から都市部へ 令和シニアの「住み替え」意識

勤め先に近い都心に暮らし、子どもが独立したら、豊かな自然に囲まれてのんびりと暮らすというのは一昔前の憧れでした。
最近では感染症の広がりを受けて、リモートワークが進み、若い現役世代が地方移住をするケースが増えています。
一方、シニア層はというと、医療や介護、美術館などが充実した都心もしくは交通アクセスのよい郊外に住む傾向が強くなっています。
ここではシニア世代になって都心部に移り住むときに注意すべき点もご紹介します。

核家族化と元気なシニア世代が住まい方を変えた

戦後の高度経済成長により核家族化が進み、シニア世代の単独世帯が増加。都心でマンションが立ち並ぶようになると、地域社会での人間関係は希薄になりました。

また2013年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」が改正されたことで、再雇用または定年退職の年齢を引き上げることが義務付けられました。この法律が施行されてから、60歳以降も働き続けるシニアが増え、アクティブに活躍する姿が見られるようになりました。

このように核家族化と定年退職年齢引き上げの影響で住まい方にも変化が表れています。「高齢期における住み替え意向に関する把握調査*」によると、持ち家の一戸建てから分譲マンションに住み替えを希望している人は35.4%、賃貸マンションへの住み替えを希望している人は25.3%。一戸建てから都心に住み替えを希望している人は合計で60.7%と半数を超えていることからもわかる通り、都心に住み替えたいシニアが増えています。

地方でのんびり暮らすか 便利な都心に移住するのか

シニア世代が都心のマンションに引越しをする傾向は1990年代後半から増加しており、今もその流れは続いています。住み替え理由はというと、「子どもが独立して夫婦で住むには広すぎる」「車の運転ができなくなり、駅近の利便性の高いところに住みたい」「子どもや孫に気軽に会いに行ける距離に住みたい」などが挙げられます。

地方の一戸建てに住む場合のメリットは、住まいの返済が終わっていれば、リタイアして収入がなくなった後も年金だけで安心して暮らしていける点です。デメリットは、購入した年齢にもよりますが、経年劣化で住みづらいところも出てくるので補修やリノベーションのための費用がかかることも考えておかなければいけないということです。

一方、都心で住み替えする場合のメリットは、駅近であれば車がなくても公共交通機関が充実していて買い物や通院も心配がありません。ただし賃貸を選べば、毎月家賃が発生しますし、分譲を購入する場合には、一戸建てを売り払った金額で老後の生活が足りるのかという心配も出てくるので十分な検討が必要です。

戸建てに住み続ける以外にも多様化する選択肢

働き方が多様化し、地域との関わり方も大きく様変わりした今、一戸建てに住み続ける以外にも選択肢は広がっています。

シニアが住み替えを考えるきっかけには家族の変化も大きい要素で、子どもが独立すると高齢夫婦にとって広い戸建は維持管理が負担になります。そこで戸建を売却する以外にも、子供が結婚した時に一緒にマンションを購入し、孫が生まれた時に子ども夫婦の住むマンションと戸建の実家を交換するということも選択肢に挙げられます。現役世代が都心から地方へ移住しやすくなったことで、この傾向は今後増加するかもしれません。

もし現在住んでいる一戸建てを売却できれば、その売却益をもとに分譲マンションを購入して、月々の家賃にかかる出費を抑えながら利便性の高い暮らしができます。

ただしマンションは一戸建てとは違って毎月「管理費」や「修繕積立金」といった固定費が発生します。ほかにも車を所有する場合には別途、駐車場代金が発生することもあります。これらの固定費は月単位では少額に見えても継続して発生しますので、住まい選びを検討する際に考慮するのを忘れないようにしましょう。

高齢期も安心して住み続けるために慎重な住み替え計画を

将来、介護が必要な可能性を考えればサービス付き高齢者向け住宅に住むという選択肢もあれば、まずは賃貸物件を借りてみて、その地域で理想的な老後の暮らしを実現できるのかを実際に住みながら見極めるという方法もあります。

厚生労働省の発表によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性は87.57歳でしたが、実は新型コロナウイルス感染症の影響で10年ぶりに男性は0.09歳、女性は0.14歳短くなりました。とはいえ、医療の発達でますます平均寿命は延び続けると見られています。

ちなみに健康寿命は2019年に男性は72.68歳、女性75.38歳とされており、男性は平均寿命との差が8.79歳、女性は12.19歳です。つまり8~12年もの間、介護や介助が必要になる可能性があるということを考慮して住まい選びを考えるべきでしょう。

その地域で医療や介護のサービスが充実しているか、高齢になったときに住み続けてもリスクはないのか。例えば、豪雪地帯であれば雪下ろしは大丈夫なのかなど、多角的に検討する必要があります。

ほかにも資金面ではシニア世代は収入が減少していく人が多いので、現役時代よりも慎重な資金計画を立てたいところ。今住んでいる住まいを売却する場合いくら残るのか、老後暮らしていく資金は十分にあるのかなど、必要に応じてファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談しながら進めていくようにしましょう。

CHECK POINT

今後の居住形態(持ち家・借家)に関する意向

住み替え後の希望居住形態(戸建て・共同住宅)別の住み替え後の希望居住形態(新築住宅・中古住宅)

住み替え後に希望する居住形態(新築住宅・中古住宅)について、住み替え後の希望居住形態(戸建て・共同住宅)別に見ると、「戸建て」を希望する世帯は「新築住宅」の意向が高く、「共同住宅」を希望する世帯は「新築住宅」41.6%、「中古住宅」36.9%と差が縮まっている。

ワンポイント コラム

高齢者施設以外の選択肢が増加「 バリアフリー賃貸マンション」

「人生100年時代」と言われて久しく、多くの人が60歳から65歳で定年退職をすることを考えると、人生のうち老後と呼ばれる期間が非常に長くなりました。このことは住まいについても大きな影響を与えています。自身と家族のライフスタイルや心身の変化から、必然的に住み替えを余儀なくされることが多くなっているのです。

「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、主に介護サービスを必要としない比較的元気な高齢者向けですが、介護型のサービス付きもあります。有料老人ホームなどと比較すると初期費用は安く済む場合が多いものの、一般的な賃貸住宅と比較するとコストは高額。月額の利用料金の他にも食費や光熱費は別途かかることが多いのです。

一般の賃貸物件は、以前は高齢者、特に単身の場合、突然の体調変化や居住中の事故や急病による孤独死リスクから、元気で自立していても入居は難しいといわれてきました。しかし現在は高齢者向けや高齢者サポート付きの賃貸住宅が増えてきています。こうした物件の多くは、段差の解消や必要な場所への手すりの設置など住居内がバリアフリー仕様になっていたり、警備会社との契約や、見守りカメラの設置など、安否確認の手段を備えています。これにより物件オーナーにとっての「高齢者に貸すリスク」を大幅に減らすことができ、また部屋を借りる側にとっても安心材料となるでしょう。

総務省によると、近年単身高齢者の賃貸住宅に暮らす割合は全国で3割を上回り、東京に至っては半数近くにのぼります。今後ますますその割合は高まると考えられており、住まいの選択肢も比例して、豊富に提供されていくことが望まれます。