ZEN CLUB

2022年 06 月号 Number. 542

<ZENグループの今>プロジェクトing

株式会社ライフポート西洋 サービス向上委員会防災チーム

「自助・共助・減災」の視点で活動する防災チーム

地球温暖化の影響による風水害の激甚化やたびたび起こる震災。
自然災害で被災するリスクは誰にでもあり、防災意識の向上や平時からの備えが重要視されています。
そのような中、マンション管理などを手掛けるZENグループ・株式会社ライフポート西洋は
防災士の資格を持つ社員13人で「防災チーム」を結成しています。
防災チームの取り組みについて、リーダーの猪口義則氏に話を聞きました。

求められる「自助減災」

地球温暖化による気候変動で、これまでにない大きな風水害に見舞われるケースが増えました。さらに各地で震度5以上の地震が頻発したり、火山噴火の危険性が指摘されるなど、被災のリスクは年々高まっています。

自然災害に伴い火災や浸水、土砂崩れなどが引き起こされると被害は大きくなり、元の生活に戻るまで時間を要します。そこでまず第一に求められているのが、防災について各人が事前に準備して、被害を最小限に抑える「自助減災」です。

マンション管理という立場から快適な暮らしを提供しているライフポート西洋には、2014年から活動を続ける防災チームがあります。設立のきっかけは、一人の社員の発言でした。

「防災に熱心なベテラン社員が、われわれはマンション管理に携わる立場として防災面での支援がしっかりできる会社でなければならない、と力説していたのです。このことをきっかけに、東日本大震災をはじめとした過去の災害の経験をふまえ、防災面での支援や提案に力を入れるのは当然という機運が社内で高まりました。そこで防災に関心の高い社員を中心に防災士の資格を取って専門チームを立ち上げ、自助共助減災の視点で活動していこうとなりました」(猪口氏)。

マンション特有の事情がある

災害については平時からの心構えと備えが大事だと言われますが、マンションには一戸建てとは異なる特有の事情があります。

猪口氏によると、マンションは基本的に耐震化されており堅固なため、災害時は自室が避難所になることを前提とした備えや防災訓練が必要と言います。個々で備えることと、管理組合で取り組むべきことを整理し、いざ被災したときに混乱しないよう平時から意見をとりまとめておくこともポイントです。

一方で、防災の専門組織を立ち上げて日ごろから積極的に活動している管理組合もあれば、防災組織のない管理組合もあり、マンションによって意識のレベルや取り組み状況は異なります。

また全国で地震や水害の大きな被害があった直後は防災への関心が高まるものの、時間の経過とともに薄れていく傾向にあると猪口氏は語ります。特に近年はコロナ禍で感染症対策に目がいき、防災対策が二の次になりがちだったそうです。

法令順守が最重要課題

そのため防災チームは2014年の発足以来、個々の管理組合の状況を把握しながら、必要とされるサポートを続けてきました。その一方で2017年には活動方針を大きく見直しました。

このとき最重要と位置付けたのは「法令順守・管理業務委託契約履行に関する支援」です。消防法では一定規模以上の建物では防火管理者を選任することが定められており、分譲マンションも多くが対象となります。

防火管理者の資格は講習の受講などを経て取得できますが、管理組合によっては成り手不足で未選任のままになっているケースもあります。「それぞれに事情が違うものの、法律で定められている以上、未選任の管理組合には講習の受講を勧めています」(猪口氏)。会社として各マンションの消防計画作成も徹底的にサポートしています。

その結果、2022年には管理組合の防火管理者未選任は2017年の80組合から63組合に減少。この5年間で新規に受託した管理組合数は150組合増えているため、未選任の割合は大幅に減っている状況です。また消防計画書の作成も2017年には250組合が未作成でしたが、現在は76組合にまで減少しました。

「法令順守は会社として当然です。今も毎月の報告で、防火管理者の選任と消防計画書の作成状況を物件ごとに確認しています」(猪口氏)。

まずは足元を見直し、固める

被災時の「社内初動体制の点検と見直し」にも力を入れています。これは災害が起きた際、情報収集や指示を出す拠点として社内の体制がしっかり機能しなければ、お客さまの安全も守れない、という観点からの取り組みです。

例えば事業所の耐震化のために、オフィス家具や備品の転倒防止や、窓ガラスの飛散防止措置などを実施しました。さらに緊急時、迅速に社員の状況を把握できるよう、安否確認システムは2種類稼働させています。

一方、災害時の社内行動指針を社員に周知・徹底させるため、適時さまざまなケースを想定した防災訓練を実施しています。最初は行動指針をまとめた手帳を配布するなどの方法で周知・徹底を図ろうとしたそうですが「中身を読まず、持っているだけでは意味がありません。

それよりは災害が起こったときすぐ行動に移せるよう、防災訓練を通して体で覚え、災害に備えた準備を進める方が有意義ではないかと考えました」と猪口氏。その一環で事業所から10キロ以内に住む社員を対象に、徒歩で出社・帰宅できるかどうかを試してもらい、行程や危険箇所の確認も行っています。

実際に災害が起きれば社員も被災し、お客さまのマンションへすぐに駆けつけられない事態が予想されます。「被災から数日は、マンションの皆様で力を合わせて頑張っていただかなくてはならないでしょう。平時から自助と共助を整理した上で防災体制を見直し、どのような備えが必要か考えていただきたいと思っています。そのためのお手伝いを私たちもしっかりさせていただきます」(猪口氏)。

マンションごとに防災体制を構築する

マンションが立地する環境によって、どのような災害リスクがあるかは異なります。そのため同社では保険会社の協力を得て、物件ごとに災害リスクレポートを共有。例えば水害のリスクが高いマンションなら、浸水を防ぐ対策を講じると共に、加入している保険で水害による損傷もカバーされるか確認するなど、個々の状況に合わせた提案やサポートをしています。ほかにも、旧耐震のマンションに耐震化を働きかける活動なども続けています。

またエレベーターの閉じ込め発生や建物の破損など、物件ごとに被害状況を「見える化」する一元管理システムも立ち上げています。そのおかげで、建物の被災状況を確認する一級建築士をどこへ派遣すべきかなど、迅速かつ適切な対応ができるようになったと言います。「震度4、5程度の震災はたびたび起きていますが、その都度、迅速な情報収集ができています」(猪口氏)。

このような取り組みを続ける中で、同社は2020年、経済産業省から「事業継続力強化計画」の認定を受けました。これは企業が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を、経済産業省が認定する制度です。申請を勧められて調べてみると、すでに認定の要件に合致する取り組みをしていたことが分かり、スムーズな手続きができたそうです。

「何が起こるか分からないのが災害ですから、完璧な準備、完璧な対応はそもそもできません。いろいろなことを想定して、何か課題が見つかればその都度、改善しながら徐々に防災のレベルを上げていくしかないのですが、事業継続力強化計画の認定を受けたことで、今までやってきたことに間違いはなかったという振り返りができました」と猪口氏は話します。

防災チームの今後については「地道にマンション防火管理体制の点検や旧耐震対策の啓もうを続けていきます。自助と共助を整理しながらマンションごとに防災体制を構築し、いざというときに備えていただきたいです」と力を込めていました。

猪口氏がチームリーダーとして率いる防災チームは、それぞれ防災士資格を持つメンバー(首都圏8名、名古屋大阪4名、総務人事部長)で構成される