ZEN CLUB

2022年 06 月号 Number. 542

不動産・建設関係のトレンド

不動産業界にも迫り来る波 「メタバース」

対面でのコミュニケーションが難しくなった、新型コロナウイルス感染症の発生以降、30年以上も前から存在していた「メタバース」に脚光が集まるようになりました。
高速インターネット回線5G登場の影響もあり、急速に進化しはじめた「メタバース」の分野では競争が激化しています。
まだまだアナログなやりとりが主流な不動産業界でも、新領域開拓という観点から知っておきたい「メタバース」。
どういうものなのかや、今後「メタバース」が不動産業界にもたらす影響についても、ひも解いていきます。

オンライン上に作られた3Dの仮想空間とサービスを意味する「メタバース」

Facebookが2021年10月に社名を「Meta(メタ)」に変更したことにも表れているように、世界の最先端を走る企業の多くが「メタバース」に注目しています。そのため、最近、メディアなどでも耳にするようになった「メタバース」というバズワードですが、そもそもどういうものなのでしょう。

実は1986年には仮想空間でアバター※1を使って交流するオンラインサービス「ハビタット」が試験運用されるなど、インターネット黎明期に着想自体は存在していました。この「メタバース」は、1992年に発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ」でアバターがアクションを起こせる仮想空間をメタバースと呼んだところに由来しています。

メタバースの分野は、インターネットが登場したばかりの頃のようにまだまだ未知なことが多く、定義が難しいとされています。

しかし一般的には、オンライン上に作られた3Dの仮想空間およびそこで提供されるサービスのことを指すとされています。つまり現時点では、現実+拡張できる現実+仮想現実を融合したオンライン上のパブリックスペースということができるでしょう。

インターネットのように私たちのライフスタイルそのものを変えてしまう可能性がありつつも、実際にどう暮らしやビジネスに影響するのかは未確定なところがあります。しかし無視できない最先端技術であることは間違いありません。

ビルやマンションのバーチャルツアーなど活用できるシーンが不動産でも

現時点ではSFのようなおとぎ話に聞こえる「メタバース」の世界ですが、例えば建設会社によるビルやマンションのバーチャルツアーなど、不動産業界にも既に導入されているものがあります。

メタバース空間内における不動産も急成長しています。例えば仮想空間に自由にアイテムを作成してプレイできる人気ゲーム「The Sandbox」では、プレイヤーはデジタル不動産を購入することができます。

ここにNFTアセット=デジタル資産を構築し、仮想空間上の地図の一部を所有できるというわけです。

現実に人が暮らす土地や建物だけを不動産と見るなら、デジタル空間にどれほどの価値があるのかと疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし2021年に取引された土地は6万5000件にもおよび、売り上げは400億円近くに上っています※2

このようにメタバースは今後ビジネスを、私たちの暮らしを大きく変える可能性を秘めています。

世界の不動産業界でも既に競争が始まっており、たとえ今はまだ先が見通せない状況であっても、競合他社がどのようなサービスを提供しているのか、動向を注視していく必要がありそうです。

メタバース推進協議会には建築家・隈研吾氏も名を連ねる

では、日本における不動産・建設業界でのメタバースの動きはどうなっているのでしょうか。

2022年3月末にはメタバース推進協議会(代表理事・養老孟司東京大学名誉教授)が建築家の隈研吾氏を顧問に迎えて設立するなど、建設業界でも新たな動きが出ています。

ほかにもバーチャルで触れ合える街「DXタウン」(横浜市西区:株式会社テンアップ運営)はVR空間の建築工事を開始。VR空間内での地鎮祭を執り行うなど、まるで実際に新たな街づくりをしているようです。

ちなみに、このDXタウンのコンセプトは「リアルがもっと好きになるVR」。このVR空間で現実世界では経験できない体験を通じて、実生活の活動に生かしていくことを目指しています。

そのコンセプトに賛同して学校や水族館、シアターや飲食店、小売店、結婚式場、観光施設など、20を超える企業がDXタウンに参加表明するなど、新たなビジネスが生まれています。

このように不動産領域においても、メタバースが利用されるようになっているのです。

セキュリティや法整備など、解決すべき課題が盛りだくさん

新型コロナウイルス感染症が発生して、リアルなコミュニケーションに制限がかかったことでオンライン上のコミュニケーションが当たり前になりました。

実際、多くの企業ではリモートワークが導入され、大手IT企業の中には90%以上が在宅勤務というところも出てきています。

オンライン上に現実と類似したオフィスを作ることができれば、いずれ私たちは仮想空間の中で働くという日が来るかもしれません。

とはいえ、メタバースの分野では課題が山積しています。例えば、セキュリティの問題もその1つです。メタバースには、膨大な個人情報やアセットが存在するので、それらを守るためにより厳しいセキュリティが求められることが予測されます。

ほかにもデジタルデータが消滅してしまったときにどうするのかなど、あらゆる法整備も急務です。

まだまだ未知なことが多いメタバースですが、不動産・建設業界でも関係のあるトピックスとして注目をし、取り入れられるところがあれば積極的に動いていくことがこれからの不動産業界の企業に求められるのではないでしょうか。

TOPIC

不動産管理業務を視覚化・効率化する「WealthParkビジネス」を導入

株式会社ユニホーでは、2020年より基幹ソフトのリプレイスを実施し、デジタルツールを中心とした業務環境の整備に取り組んでいます。

現在はオーナーアプリ導入プロジェクトのPoC(実現可能性のテスト)として、不動産管理の業務支援システム「WealthParkビジネス」を一部のエリア・オーナー様を対象に導入。

これにより紙やPDFデータ等で確認する従来の収支報告に比べ、賃貸経営の状況・キャッシュフローがよりリアルタイムに、最適な形で“視覚化”され、更なる投資収益の向上に向けて打つべき施策の策定が容易となります。

不動産業界全体のDXの遅れが懸念されるなかで、デジタル化による生産性の向上が実感できると好評です。

ワンポイント コラム

デジタルアセットの価値を証明する「NFT/Non Fungible tokens 」非代替性トークン

メタバースの話題でも触れられることが多い「NFT」。略さずに「Non-Fungible Token(ノン-ファンジャブル トークン)」と言われても、日本語で「非代替性トークン」と言われても非常にわかりにくい言葉ですが、デジタルアセットについて考える時には今や不可欠のキーワードです。

トークンとは「発行主体が取引相手に交付する証券のような保証データ」のこと。データの改ざんや不正利用を防ぐ技術「ブロックチェーン」を使用して発行した暗号資産です。

また、非代替性とは「原画」や「直筆サイン入りのアイテム」など「替えが効かない、唯一無二のもの」。対して「私の100円とあなたの100円」のように、現金やBitcoinなどの「他人と交換しても客観的に同じ価値として捉えられるもの」が代替性です。

つまり、通常の100円玉は代替性、エラーコインのように唯一無二でプレミアがついた100円玉は非代替性と言えるでしょう。特定の舞台や映画が特定の時間に見られることを証明するチケットも非代替性にあたります。

しかし、デジタルは容易に劣化のないコピーが可能なため、本来は非代替性のものを海賊版として代替性のように扱うこともできてしまい、デジタルアセットの管理方法は課題とされてきました。

それがブロックチェーンの技術により偽造や改ざんできないことが保証され、NFTによって「唯一無二」「誰かの所有物」であることが証明されるようになりました。

Twitter創業者の一人、ジャック・ドーシー氏がTwitterに最初に投稿したツイートに、数億円の値がついたこともありました。2021年のNFTの取引総額は400億ドル超(調査によって違いがあります)、それが2025年までに倍増するとの予測もあり、さまざまな分野での活用が模索されています。