ZEN CLUB

2022年 05 月号 Number. 541

不動産・建設関係のトレンド

地球の未来につながる!? 注目を集める木造高層マンション

高層マンションは、鉄筋のような高強度の素材を使って作られるのが当たり前でした。
しかし今、木材に再び注目が集まっており、国内大手建設会社が続々と木造高層マンションを手がけています。
木造と聞くと、耐火や耐震面の不安や、大量に木材を使用することで森林伐採につながるのではないかなどの疑問がわいてきます。
そこで今回は木造高層マンションの実態や今後について紹介していきます。

木造建物

脱炭素社会が叫ばれるようになり脚光を浴びる木造高層建築物

地球温暖化が進み、海面上昇や気候変動などにより災害が発生し、私たちの暮らしにも大きな影響を及ぼしています。

近年では「脱炭素社会」が叫ばれるようになり、身近なところでいえば、ヨーロッパでは電気自動車の売り上げと販売シェアが拡大。2035年には欧州連合(EU)ではガソリンで走る新車の販売が禁止されるなど、脱炭素社会へシフトしつつあります。

建築業界も例にもれず、「脱炭素社会」への取り組みが始まっています。それは木造高層マンションです。これまで高層マンションといえば、鉄やコンクリートなど耐震や耐火に優れている素材を使うのが主流でした。しかし「エンジニアリングウッド」という加工された木材の登場によって、高層マンションを木材でつくることが一気に現実となりました。耐震性を保つために使用しているのが、細長い木の板を並べた層を繊維が交わるように互い違いに何層も重ねて圧着するCLT(直交集成板)と呼ばれるもの。互い違いにすることで、縦と横の両方からかかる圧力に耐えられるようになり、強度はコンクリート並みになるというから驚きです。

大手ハウスメーカーではすでに木造中層建築物で使用できる耐震等級3(住宅性能表示制度の最高等級で、建築基準法では震度7程度の地震では倒壊しないとされている)の高強度耐力壁を開発しています。

また2×4という枠組壁工法では、国内最高レベルの壁倍率30倍を実現するなど、耐震性は十分といえるでしょう。

では、耐火の面ではどうなのでしょうか。東京神田のオフィス街に2021年春に完成した建物では柱が三層構造になっており、火災発生時に表面の木材が炭化することで、中に火を通しにくくします。さらに内側を石こうで四方を囲み、熱を吸収しづらいように工夫しています。

木材利用は森林破壊ではなく若返りにつながる

木造高層マンションをつくるために木が伐採されると、森林破壊につながるのではないかという疑問を持たれる人もいるでしょう。実は、現在の日本では人工森の「高齢化」という問題があります。

木材の需要が高かったときには、定期的に植林や間伐などが行われ、森は健全な状態に保たれていました。しかし需要が落ちると、森林の手入れの機会が減り、森林は荒れてしまいました。木は二酸化炭素を吸収しますが、成長過程において吸収量が増加します。やがて樹齢20年を過ぎたころから、二酸化炭素の吸収量が大きく減少します。高度成長期のあたりから木材の需要が減ったことによって、樹齢20年以上の木が増え、二酸化炭素の吸収量が減っているのです。事実、2003年度に約9900万トンだった二酸化炭素の吸収量が、2019年度には約5,500万トンと4割以上も減少している深刻な状態です(出典:「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」)。つまり、木材を大量に消費することは森林破壊ではなく、森林の再生となり、二酸化炭素の吸収量増大へとつながります。

このように耐震や耐火、森林破壊への不安が解消された今、多くの建設会社が木造の高層マンション建築に取り掛かっているのです。

投資の面からも木造高層建築の取り組みは重要

木材を高層建築に利用することのメリットは、環境に優しいだけではありません。内装の木質化を高めた部屋は、リラックス効果により良質な睡眠を促すことや、スギなどの針葉樹には血圧低下の機能があるためリラックスできるといわれており、そこで暮らす人たちに癒やしが期待できることは、木造建築の利点として以前から挙げられてきました。

また多くの企業が木造高層建築に取り組んでいるのは、投資を集める際にもこうした取り組みがプラスに働くということが上げられます。

近年、機関投資家(大規模な投資を行う企業・金融機関などの投資家)が投資をする際に、ESG=環境(E:Environment)・社会(S:Social)・企業統治(G:Governance)の課題を反映させるかどうかが重要になっています。これは投資家が企業に投資を行う際、これまでのようにただ企業の財務情報だけで投資をするかどうか判断するのではなく、「環境や社会に対する責任を果たしているかどうかを重視すべき」という国連の提言を受けて世界的に広がりました。

こうしたことから、日本でも汚染物質の排出状況や商品の安全性、供給先の選定基準や従業員の労働環境のような、ESGに基づく非財務情報の開示を求められるようになりました。

投資家から資金を集め今後も企業として事業を継続していくためにも、木造高層建築のような地球環境に配慮した取り組みは大切なのです。

今後の課題はコストと工期の短縮化

いいこと尽くしに思える木造高層建築ですが課題もあり、最大の問題はコストです。鉄骨で高層マンションを建築した場合と比べてみると、約2割コスト高になることもあり、ビジネスの主流となるのはまだ難しい状況といえます。また加工に手間がかかるので工期が長くなる点も解消すべき課題です。

今はまだ国や自治体などの補助金を使わなければ厳しいコスト面ですが、木造高層マンションを手がけることは地球環境を守ることにつながり、環境問題に意識の高い企業として認知されることで企業イメージや投資先としての魅力が向上します。

高層建築物のすべてが木造になることはないかもしれません。しかし、あらゆる素材を研究、開発し、可能性を広げ、建物の特性や用途などに応じて使い分けることは、建築の新たな未来を切り拓くことにつながるはずです。

日本では古来より木造建築に関する膨大な知識と技術の蓄積があります。社寺の建造などでも磨かれてきた伝統的な木造技術が、先端科学による素材や加工技術と出会う時、また新たな高層建築の扉が開くことでしょう。

TOPIC

1300年前の心を受け継ぐ、世界遺産・薬師寺の復元事業

薬師寺
薬師寺

680年藤原京にて造営が開始された薬師寺は、歴史の中で多くの堂塔が火災や地震で失われてしまいました。それが1967年、ついに悲願の伽藍復興が始まります。この工事に携わったのが池田建設でした。

誰も見たことがない1300年前の建物を復元するという難事業。三代にわたり法隆寺専属の宮大工棟梁であった西岡常一氏をはじめ、古代史や文化財建造物の学者の方々の知識と経験、貴重な素材や道具、熟練の職人の技術を集結した再建工事は半世紀にも及びました。

潤沢には揃わない素材、手に入った材料を臨機応変に活用し、現場の想いをひとつにまとめ、1300年前の薬師寺が今の時代に蘇りました。

木造空間に暮らすメリット

断熱性に優れる

木材は鉄に比べて熱を通しにくく、断熱性が高いというメリットがあります。鉄骨やコンクリートの住宅に比べて、木造住宅の構造自体の断熱性は優れています。外気温が室内に入り込むのを防ぎ、暑い夏も寒い冬も快適に過ごすことができます。

天然の調湿効果

木材には調湿作用があり、空気中の湿度が高いときには水分を吸収し、湿度が低いときには水分を放出してくれます。このため、内装などに木材を多く使用することで部屋の湿度の変動を小さく抑え、過ごしやすい空間になります。

ワンポイント コラム

リスクを抑えた長期的な運用が期待できる「ESG投資」
ESG=Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス=企業統治)

ESGという概念は、2006年に当時の国連事務総長アナン氏が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」(PRI=Principles for Responsible Investment)を提唱したことをきっかけに認識されるようになりました。

それまでの投資方法では、企業の業績や財務状況といった情報が投資を判断する上での主要な評価材料でした。しかし、近年では財務情報だけでは不十分と考えられるようになり、ESGという非財務情報の要素を加えて投資判断されるようになりつつあります。つまり儲かっているか、財務状況は良いか、などの評価だけでなく、環境問題への取り組みや社会への貢献、従業員への配慮、法律遵守など、さまざまなESG課題に前向きに取り組んでいるかどうかも含めて評価され、投資先が選定されているのです。

2008年のリーマン・ショック後、短期的な利益を目指す投資スタイルへの反省や批判が高まり、世界の多くの投資機関が国連の責任投資原則に署名しました。日本では85機関が署名、その運用資産残高の合計は103兆ドルに達しています。

さらに、2015年の国連サミットでは「SDGs」(持続可能な開発目標=Sustainable Development Goals)が採択され、世界の国や企業等が様々な環境問題や社会問題などの解決に向けて莫大な資金を投資し始めています。ESG課題に取り組む企業はそうした社会的課題の解決に尽力していくため、SDGs関連投資の需要を取り込むことが可能であり、社会貢献と同時に一定の収益確保も見込まれています。

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