ZEN CLUB

2022年 02 月号 Number. 538

不動産・建設関係のトレンド

不動産DXは業界を変えられるか

手書きの紙だったものがWordやExcelを使えば「デジタル化」と言われたのはひと昔もふた昔も前の話。
単にそれまでのアナログ的作業をデジタルに置き換えるだけでは「DX」ではありません。
データとデジタル技術を利用し、製品やサービス、ビジネスモデルのあり方から「変革」するべき時が来ています。
世界中で進むDXの波。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」を前に、日本の不動産業界は変革を起こせるのでしょうか。

不動産業界のDX推進状況とコロナ禍で明らかになった緊急性

「DX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)」とは、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、ビジネス用語としては定義が不確定ながら、おおむね「デジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルの変革を図り、新たな価値を創出すること」と要約できます。DXはあらゆる業種において重要視されており、ITやAIを駆使したかつてない製品や新しいサービスを展開する企業が続々と登場しています。

不動産業界においてもオンラインでの会議や接客をはじめ、管理業務支援や電子承認などへのニーズも高まり、各プロセスのデジタル化が求められています。現場の課題を解決するITソリューションは「不動産テック(不動産×テクノロジーの造語)」と呼ばれ、技術進歩や規制緩和を背景に、近年不動産テック企業も急増しています。

一方でコロナ禍を契機に、行政も含めたDXの遅れとその緊急性が浮き彫りになりました。特に不動産業界は多くの規制や、投資家・入居者・建設業者・開発業者など業界構造が複雑なことも一因となり、デジタル化は遅々として進んでいないのが現状です。各企業ごとのITシステムの問題にとどまらず、業界全体の固定観念を変革することの重要性が広く認識されるようになりました。

経済産業省DXレポートの「2025年の崖」とは

既存の古いシステムが複雑化・ブラックボックス化していてデータ活用ができなかったり、保守運用の担い手となる人材の不足などでDX化が進まなかった場合、2025年以降、最大で年間12兆円もの経済損失が生じる可能性がある——この「2025年の崖」について経済産業省が「DXレポート」で言及したのは2018年のこと。

以後2020年度までに日本企業の74%が何らかの形でDXに着手し、2018年度比で+11%拡大しました。しかし、そのうち34%は「計画策定中」「一部領域で取り組み中」にすぎず、「複数の領域で取り組み中」「完了済み」という企業は40%にとどまり、2019年度から平行線をたどっています。*1

地域密着型の不動産会社などでは今もアナログ文化が根強く残っていて、顧客管理や帳票をいまだ手作業で行っているところも見られます。しかし規制によって硬直していたプロセスのデジタル化が動き始め、これまでITが必要なかった「街の不動産屋さん」もこのままではいられません。長く人材不足に悩む不動産業界はDX要員となる人材確保も大きな課題ですが、他業界に比べIT投資が少なく労働生産性が低いことも人手不足の一因という悪循環。業界全体のDX化の遅れは、裏を返せばDXを進めることでテック人材の拡充も進み、業界全体の改革の余地が大きいことも意味します。

不動産テックが可能性を広げる新たなビジネスモデルの創出

リモート会議はもはや一般的となり、VRでの擬似内見やARによるレイアウトのシミュレーション、ビッグデータを活用した市場分析やIoTを導入したスマートホームも実現しました。周りを見渡せばそこかしこで不動産テックは進んでいます。

インターネット上の複数のコンピューターで暗号化した記録を共有しチェーンのように繋いで蓄積する「ブロックチェーン」は、物件のデータベースを低コストで効率的かつ安全に管理できるとして取り入れる動きが増えてきています。さらに、一定の設定条件が満たされることで仲介業者などの第三者を介さずに契約の自動更新の実行が可能になる「スマートコントラクト」は、ブロックチェーン上で実行されるプログラム。これにより不動産取引の効率化が期待されています。

また、空き家問題や廃校、建築物の老朽化などの社会的な課題にも、スペースシェアリングやリフォーム・リノベーションのマッチングサービスなど不動産テックが解決の一助になるとして注目されているほか、価格査定やその品質向上、不動産取得のローン・保証など、様々なジャンルのサービスが増加。アメリカなどと比べ遅れていると言われる日本の不動産テックも盛り上がりを見せています。

ZENグループも推進する次代のためのDX

ZENグループにおいても、関連会社を含めたグループ全体で基幹システムの導入に取り組み、会社ごとにバラバラだった同一事業のシステムを統一し、業務の効率化を推進しています。

まずは決済の電子化や業務手順の統一化を進め、ZENホールディングス統合システムをベースに、クラウド型ソフトウェア「SaaS(Software as a Service/サース)」も積極的に導入、スピードと柔軟性の向上を図っています。SaaSはインターネット経由でクラウドサーバーにあるソフトウェアの必要な機能を必要な分だけ利用できるサービスで、開発コストをかけずに業務効率化や顧客サービス向上と経費削減の両立を可能にします。

現時点ではまだ、ZENグループのDX化は道半ばではありますが、今後も業務効率の向上だけでなく、お客様が直接触れる商品・サービスのさらなる向上にも一層努めてまいります。

ZENグループがすでに導入しているSaaSの例。
顧客管理「Salesforce」、建設現場プロジェクト管理「アンドパッド」、不動産管理・仲介業務支援「いえらぶCLOUD」、クラウドデータ管理「AWS」

社内におけるDX推進の目的
DX推進で苦労していること

ワンポイント コラム

国税庁もデジタル庁と連携して税務行政のDX化へ

所得税の申告には生命保険の控除証明書や特定口座の年間取引報告書に住宅ローンの年末残高証明書など、多くの書類を揃えなければなりません。そして確定申告書を提出する人は毎年2,000万人以上にも上ります。

国税庁は「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」を目指して、昨年発足したデジタル庁と連携し、税務行政のDX化を推進中。DX化が進めば様々な情報も各機関からデータを取得し、簡単に申告書が作成できるようになります。すでに「マイナポータル」では生命保険や特定口座取引のデータが自動取得でき、今年は損害保険やふるさと納税も対応する予定です。

また国税庁がサポートしている「確定申告書等作成コーナー」では、スマートフォンのカメラ機能で源泉徴収票を撮影するだけで必要な情報を読み取るシステムを開発中。申告書作成の手間が軽減され、入力ミスも防げるようになります。

確定申告に関する相談もチャット形式で24時間対応するロボット「チャットボット(ふたば)」が活躍するなど、デジタル化の遅れを指摘されていた公的機関でもプロセスの変革は始まっています。

確定申告(必要なデータの自動取り込み等)*2:実現時期は「デジタル・ガバメント実行計画」(令和2年12月25日閣議決定)の記載等に基づく現時点の見通し