ZEN CLUB

2024年 12 月号 Number. 576

<ZENグループの今>プロジェクトing

秋田県秋田市

約10年にわたる大規模工事がついに完了

重要文化財「天徳寺」保存修理工事

保存修理工事を終えた天徳寺

-伝統建築分野を強みとし、薬師寺白凰大伽藍堂の復興工事を始め、
護国寺・月光殿の免震修復や寛永寺・黒門の保存修復など
復興工事を数多く手掛ける池田建設。

2015年度から4期にわたって行ってきた秋田県の重要文化財・天徳寺の
保存修理工事が2024年12月で完了しました。
工事所長に、約10年にわたる工事についてお伺いしました。

重要文化財・天徳寺保存修理工事】 2015~2024年度

  1. 第1期 : 鉄骨素屋根の組立、調査解体
  2. 第2期 : 発掘調査、木材購入・加工
  3. 第3期 : 揚屋工事、基礎工事、傾き等の調整、補修・組立
  4. 第4期 : 補修・組立、耐震補強、復旧、茅葺き、仕上げ
工事所長 中村 健一

江戸時代末期にまで遡る重要文化財の復元

―今回の工事の目的を教えてください。

中村:天徳寺の本堂が建てられてから約300年、書院は約200年経過しています。経年劣化などによる破損を健全化し、建物が持つ本来の価値を高めること。

そして、重要文化財に指定される以前に行われた工事の改変を明らかにし、往時の姿に蘇らせることが目的です。
設計方針のもと、今回の工事では江戸時代末期の形まで復元することになりました。
寺に残る文献や博物館の古絵図を参考にし、解体をしながら調査を行い、往時の工法を再現・具現化するのが我々の役割です。

時代考証を重ねた4期にわたる保存修理

―2015年度の第1期では、何から着手されましたか?

中村:主に調査解体です。文献から間取りや外観のイメージは汲み取れますが、詳細は実際に解体しながら調べていきます。
解体していくと、本来の柱や梁、壁の位置が把握でき、過去に柱を切って部屋を広げたり、壁を作り部屋を分けたりする工事が行われたことが分かりました。
後の工事で木材を極力そのまま使用するためにも丁寧な解体が必要で、調査解体には約2年を費やしました。
この調査解体を天候によらずスムーズに行うため、建物全体を覆うように鉄骨素屋根を組み立てます。
実はこの鉄骨の組み立てが難航しました。立地の関係で建物の裏側には重機が一切入れず、裏側は人力+レッカーでブームを最大まで伸ばして何とか作業できました。

過去の工事で壁が追加され、部屋が区切られていた跡。今回の工事で往時の一部屋に復元。
全天候に対応して工事ができるよう、鉄骨素屋根を建設。

―第1期での調査をもとに、第2期ではどのような工事を行ったのでしょうか?

中村:天徳寺は史跡のため、市が発掘調査を行います。
その間、我々は木材の調達・加工を行いました。
解体した木材を可能な限り使用することを前提に、腐食している部分を削り取り、新しい木材を組み合わせて元通りの形状に仕上げていきます。
数え切れないほどの本数を加工していくのに、2年以上を費やしました。

建物全体をジャッキアップし、コンクリート基礎を設置。

―調査や木材加工と、事前準備にかなりの時間を要するのですね。次の第3期では何がポイントでしたか?

中村:第3期は基礎工事がメインで、建物を持ち上げた状態で下を掘り、全面をコンクリートで固めます。
数百トンある建物が束石に乗っている構造で、ジャッキで少しずつ慎重に持ち上げていくのです。
束石は300年も経過すると風化して破損しているものもあります。
当時の材料をそのまま生かすため、接着やコンクリート補強などで修復を行います。

木の組み方や壁の土塗りなど往時の工法で組み立て、新しい木材を使う際も古い木材の色味を再現。

―最後の第4期、いよいよ組み立てですね!

中村:第4期では耐震補強工事を終えると、茅葺き屋根の葺き替えです。
屋根の面積が約1,500m2と広大で、作業に1年以上かかりました。
茅は高さが約1mあり、実際見ていただくと分かりますが、迫力がありますよ。そして、内装の組み立て工事です。
補修した木材を使い、壁も土を塗る昔ながらの工法で往時を再現するように仕上げていきます。
第4期で思い入れがあるのが素屋根の解体です。
実は一番注意を払ったのがこの解体で、修復した建物を破損しないよう慎重に作業を行いました。
2024年12月に保存修理が完了し、約10年という工期を終え、「やり切った」という感慨深い気持ちでいっぱいです。

歴史を未来へ繋ぐために

建物の記憶を丁寧に紐解き、文化・歴史を次の世代へ伝える。

―天徳寺は、中村所長にとってどのような工事になりましたか?

中村:時代考証をしながら行う特殊な工事で、重要文化財でしか携わることのできない貴重な経験でした。
今回の工事を終え、次に保存修理工事が行われるとしたら100年以上後でしょうか。
重要文化財などの伝統建築を未来へ繋ぐために、保存修理工事は重要な役割を担っていると考えています。

天徳寺

天徳寺

工事名:
重要文化財天徳寺保存修理工事
場 所:
秋田県秋田市泉三嶽根10-1
発注者:
宗教法人天徳寺
監理者:
公益財団法人
文化財建造物保存技術協会
施 工:
池田建設株式会社
官公庁から民間オフィスビル、邸宅、社寺等の伝統建築まで建設「池田建設」
池田建設株式会社
〒102-0074 東京都千代田区
九段南2-4-16 九段ZENビル
TEL.03-3263-2900
https://www.ikeda-kk.co.jp/