ZEN CLUB

2024年 10 月号 Number. 570

<ZENグループの今>プロジェクトing

千葉県千葉市 アシステッドリビング稲毛

一人ひとりの生きてきた歴史を知り、尊敬の念を忘れない

自立支援に力を入れた親身の介護

 リゾートホテルをイメージした介護付有料老人ホーム「アシステッドリビング稲毛」。1階はオリエンタル風、2階は洋風、3階は和風、そして4階は緑と太陽を感じる屋上と、認知症の方にも自分のフロアや居室をイメージしやすい配慮がされています。

常に「利用者様とご家族に寄り添う」ことと、そのための「チームケアの充実」を考える、施設長兼千葉エリアSV・市原紀子さんにお話を伺いました。

「超高齢社会」に生きるということ

65歳以上の高齢者の割合が人口の7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」と呼びます。日本が高齢化社会に突入したのは1970年。

それが1994年には高齢社会になり、13年後の2007年には21%を超え「超高齢社会」となりました。さらに2019年時点で28.4%に達し、現在日本は世界で最も高齢者率が高い国※1となっています。

高齢化の要因の一つは少子化の進行による若年人口の減少、もう一つは医療など技術の進歩が支える死亡率低下による65歳以上人口の増加です。「人生100年時代」という言葉は、すでに広告のキャッチフレーズではなく、私たちの身近な実感となりました。

長寿が祝福である一方で、「老後の備え」に関するアンケート※2では、97%が「病気や収入など将来の生活に不安を感じる」と回答。

自分が病気になることや介護が必要になること、また自分も年を取るのに親や配偶者の介護も必要になる「老老介護」への不安も見られます。

自分に介護が必要になったとき「できるだけ公共のサービスを活用したい」と回答※3したのは49.8%で、「家族や身内で完結したい」17.6%を大きく上回りました。

しかし、介護サービスの施設不足や人材不足、施設スタッフの対応、健康状態の悪化など、さまざまな不安を感じる人は少なくありません。

「利用者様はどなたもただの“おじいさん、おばあさん”ではありません。皆様それぞれが誰かのお母さん、お父さんであり、奥さん、ご主人であり、皆さん社会の中で生きてこられた、誰かの“愛する人”なのです」(市原さん)

だからこそ「一人ひとりの生きてきた歴史を知り、尊敬の念を忘れない」ことをモットーとして、全スタッフが「自分の親や身内を安心して入所させられる施設」であるよう心がけているといいます。

「自分でできること」を奪わない

「介護保険の理念は『自立支援』です。過剰な介護はご本人ができていたこと、できることや意欲まで奪ってしまいます」と、市原さんは言います。

歩くことや車いすを自分で操作すること、トイレに行くことや、周りのちょっとしたお手伝いなど、少しでも自分でできることが増えると、それが「外出したい」「家族に元気な姿をみせたい」という前向きな意欲につながるのだそうです。

要介護5の廃用症候群※4で入所された方のケースでは、かつて一眼レフでの写真撮影が趣味だったことからカメラとプリンターを持ち込んでみると、機能訓練時に花や施設などの写真を撮りに行くようになり、すると自主訓練も積極的に行われ、最終的には要介護1に向上してご自宅に帰られました。

ほかにも、オムツ対応で病院から入所された方が、トイレに行ける環境を整えたことでオムツが外れ布パンツになり、褥瘡も完治したケースや、病院からペースト食で入所された方が、歯や嚥下に問題がないため食事を普通食に戻したところ、体重も5kg増え点滴や高濃度栄養食が必要なくなった、というケースもあります。

「もちろん年齢相応に機能低下される方もいらっしゃいますが、お一人おひとりの残存機能に目を向け、チームで自立支援に取り組むことは、“その人らしさ”を最期まで失わず過ごすために重要な意味があると考えています」(市原さん)

「冷たい手」と「温かい手」

「介護とは技術だけでなく、利用者様やご家族の気持ちに寄り添うことが大切です。

職員に必要なのは忙しく走り回ることではなく、利用者様の横に座ってお話を聞ける環境なのです」(市原さん)欧米の介護の現場には「冷たい手と温かい手」という考え方があるそうです。

「冷たい手」とは、利用者に直接触れることのない間接業務のことで、「温かい手」は利用者に実際に触れる業務のこと。

アシステッドリビング稲毛では、この間接業務や不必要な作業を見直し、効率良くすることで、施設利用者様と直接関わる「温かい手」の時間をより多く取れるようにしています。そのために全職員にアンケートを取って改善の提案を募り、できることには全て取り組んできました。

例えば、紙の記録を減らしてアプリに記入し、全員が情報共有することで申し送りなどの時間を削減。

また、とろみを付けた飲み物をスタッフが作る代わりに、とろみサーバーを設置することで人の手間と時間を削減し、その分を「温かい手」の介護に充てられるようになりました。

「『夜寝ないから睡眠導入剤を』とか『暴言暴力があるから精神薬を』と言う前に、その方と向き合い、どんなお仕事をしてどんな生活をされてきたかを理解すると、見えてくる答えもあります。

例えば徘徊や帰宅願望などは現場でよく聞く言葉ですが、そうなるには多くの場合、個々に理由があります。

『家に帰りたい』と落ち着かない方も、よくお話を聞いてみると『庭の草むしりとお墓参りがしたい』とのことだったので、お連れすると翌日から落ち着いて笑顔で過ごしていただけるようになった、というケースもあります」(市原さん)

気持ちよく働ける職場づくり

アシステッドリビング稲毛ではこれまでも業務内容を見直し残業削減を図ってきて、現在ほぼゼロを達成しています。

さらに適材適所で働きやすく、スタッフの負担を減らし、意見や希望を言いやすい良好な人間関係、職場づくりも欠かせません。

こうした取り組みにより離職率も下がり、全員が公休や有給休暇はもちろん希望休も取れています。

「技術や経験があっても助け合いや笑顔のない施設に安全と安心は生まれません。

人間相手の仕事に正解はありませんが、全職員が気持ちよく働けることが、利用者様やご家族の信頼を得るチームケアの第一歩なのは間違いないと思います」(市原さん)

天気のいい日は外で日向ぼっこ
利用者様お一人おひとりに合わせた歩行訓練
カラオケを楽しむ利用者様
施設長兼千葉エリアSV・市原紀子さん
株式会社ZENウェルネス
アシステッドリビング稲毛
https://www.zenwellness.co.jp/inage/