ZEN CLUB

2024年 09 月号 Number. 569

不動産・建設関係のトレンド

関連法改正で住まい・仕事・コミュニティの整備推進 「二地域居住」の促進へ

いま、地方移住への関心が高まっているその一方で、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)への転入はコロナ禍で一時減少したものの再び増加。地方を活性化し、東京圏への過度な一極集中を食い止めるためにも、地方への人の流れの創出・拡大が急務となっています。

そこで国は「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律(広域的地域活性化基盤整備法)」の改正法(以下、改正法)を策定、5月15日、参院本会議で可決・成立しました。同法は公布から6ヶ月以内に施行される予定です。

注目される「二地域居住」とは

これまで「二地域居住」に明確な定義はありませんでしたが、生活利便性が高い都心部をメインの居住先としつつ、地方をサブの居住先とすることなどを指していました。

今回成立した改正法では、三地域以上の居住も含めて「特定居住」という名称を用い、「当該地域外に住所を有する者が定期的な滞在のため当該地域内に居住を定めること」と定義。観光のような短期かつ単発的な滞在などは該当しない、住居のほかホテルや旅館に居住している状態も含む、なども示されました。

インターネットによってどこに住んでいても仕事や学習、交友関係の維持もしやすい現代社会。自由に住む場所を決め、個々の事情に応じて移動もしやすくなりました。

「二地域居住」によって新たな出会いや体験が生まれ、「ウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)の向上」が期待されるほか、地域社会にとっても関係人口の創出、経済の活性化などのメリットがあります。

課題を解決するための改正法

内閣府の調査(2023年4月)によると、東京圏在住者の「地方移住への関心」は、2020年5月の時点で「関心がある」の回答が30.2%だったのに対し、コロナ禍後の2023年3月には35.1%に上昇。

特に東京23区の20歳代では43.0%と半数近くが地方移住への関心を示していました。

また2022年度国土交通省の調査では、二地域居住をしていない人の約3割に関心があることが分かっています。

このように移住・二地域居住へのニーズの高まりは見られるものの、これまで「住まい(住環境)」「なりわい(仕事)の確保・働き方」「コミュニティ(地域への参加)」といった3点において課題が挙げられていました。

そのため、二地域居住者向けに、住宅やコワーキングスペース、交流施設などの整備や、市町村ごとの実情を踏まえた居住関係の整備に取り組む制度的な支援が必要だとして、国は広域的地域活性化基盤整備法を改正。

主な改正点は

  1. 二地域居住促進のための「市町村計画制度」の創設
  2. 二地域居住等支援法人の指定制度の創設
  3. 二地域居住促進のための協議会制度の創設
  4. の3つです。

二地域居住の促進施策を進めやすくなる

このうち1については、都道府県が二地域居住に係る事項を内容に含む「広域活性化基盤整備計画」を作成したとき、市町村は「二地域居住の促進
に関する計画(特定居住促進計画)」を策定できるようになります。

市町村の特定居住促進計画では、地域の方針や求める二地域居住者像など「基本的な方針」を住民の意見も取り入れながら検討し、拠点施設の整備や、居住者の利便性向上・就業機会創出につながる施設の整備なども盛り込むことができます。

これにより、空き家を改修した“お試し”居住施設、コワーキングスペース、交流施設、高速道路のインターチェンジとコワーキングスペース間の道路整備などに国の支援を受けやすくなったり、特例措置を出したりし、より強力に二地域居住を支援していけるようになるでしょう。

また、2は市町村が二地域居住者に「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニテイ」を提供する活動に取り組むNPO法人や民間企業を「二地域居
住等支援法人」として指定できる、というもの。

3の協議会では市町村、県、地元住民・商工会・宅建業者・農協などで計画を協議し、2の支援法人と連携して総合的な支援を実施します。これにより官民連携で二地域居住が促進されることが期待されます。

国は取り組みの結果、特定居住促進計画の作成数を施行後5年で累計600件、二地域居住等支援法人の指定数を施行後5年間で累計600法人にする目標を設定しています。家族構成や個々の価値観が多様化している今、不動産についての考え方も変化しており、二地域居住という新たな選択肢が広がっていくかもしれません。

■ 活用できる関連施策

二地域居住の取り組みにあたり、活用できる国の関連施策が複数あります。
そのうち不動産に関するものの一部をご紹介します。

WebGIS システム「土地・不動産情報ライブラリ」 国土交通省

円滑な不動産取引を促進する観点から、オープンデータ等を活用し、不動産取引の際に参考となる情報(価格、周辺施設、防災、都市計画など)を重ね合わせて表示させる WebGISシステム「不動産情報ライブラリ」を運用。二地域居住先を検討する上で参考となる医療機関、学校・保育所などの周辺の生活環境や、災害リスクなどに関する情報を提供している。

https://www.reinfolib.mlit.go.jp/

空き家対策総合支援事業等 国土交通省

空家法の空家等対策計画に基づき市区町村が実施する空き家の活用・除却や、空家等管理活用支援法人による空き家の活用等を図るための業務、NPO・民間事業者・地方公共団体等が実施するモデル性の高い空き家の活用等に係る調査検討または改修工事等への支援を行う(~令和7年度)。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/akiya-taisaku/index.html

地方創生移住支援事業 内閣官房・内閣府

東京23区に在住または通勤する人が、東京圏外の移住先において起業、就業または東京の仕事でテレワークを勤務形態として継続する場合等を対象として、都道府県・市町村が共同で移住支援金を支給。

https://www.chisou.go.jp/sousei/ijyu_shienkin.html

全国版空き家・空き地バンク 国土交通省

地方公共団体が把握・提供している空き家や空き地の情報について、各団体を横断して簡単に検索できるように「全国版空き家・空き地バンク」を構築している。

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000131.html

フラット35 住宅金融支援機構

住宅ローンに対する多様なニーズに対応するため、民間金融機関による全期間固定金利の住宅ローンを支援。借入時に総返済額が確定し、安心してローンが組めるため、若年世帯を中心に利用。セカンドハウスの取得でも利用可能。

https://www.flat35.com/loan/flat35/index.html