ZEN CLUB

2024年 08 月号 Number. 568

不動産・建設関係のトレンド

軽量で持ち運びしやすく施工も容易、広がる可能性 新しい耐震補強材「カボコーマ」

小松マテーレ株式会社ファブリック・ラボラトリー「fa-bo」

組紐の技術を応用した新素材

『地震大国』日本において、建物の耐震性向上は必須の課題。耐震補強工事にはさまざまな方法がありますが、近年注目されているのが軽くて丈夫な「炭素繊維」を使った工法です。使われているのは石川県の化学素材メーカー「小松マテーレ」が金沢工業大学と共同開発した炭素繊維複合材料「CABKOMAストランドロッド(以下カボコーマ)」。

カボコーマは日本の伝統産業である「組紐」の技術を応用し、鉄よりも強度の高い熱可塑性炭素繊維複合材(CFRTP)をロープ状に加工した商品です。

比重は鉄の約1/5で、約160mのロールでも14kgと軽量。手に抱えて容易に運べるうえ、狭い場所へ持ち込むのも苦労しません。

他にも「強度がある」、「錆びない」、「優れた耐久性(寸法安定性)」といった点がカボコーマの強み。

組紐技術がもたらす「しなやかさ」と炭素繊維素材の「強さ」がうまくマッチした新材料として注目されています。

また熱可塑性の樹脂をマトリックス材に使用しているため、熱成形や加工が容易でさまざまな用途での利用が期待できます。

文化財の耐震補強で威力を発揮

カボコーマが注目されるきっかけとなったのが、善光寺の経蔵(長野県)や旧富岡製糸場(群馬県)といった文化財の耐震補強に採用されたことでした。

例えば重要文化財である善光寺の経蔵は1759年建立の木造平屋建て。耐震補強工事において、天井面や壁面の耐震ブレース(筋交い)としてカボコーマが採用されました。

文化庁の報告書では「軽量で高強度であることから自重によるたわみが少なく、大きな初期張力を導入しなくても直線性が維持でき、木材のめり込みによるたわみ増大も少ない。また、柔軟であることから小屋組を大幅に解体しなくても部材の搬入、設置が可能で、狭隘な部分を通すことができ、製作長さも実用上制限がない」と評価。

歴史的建造物に対して施工性に優れ、鋼材補強と比較して古材への影響も最小限に抑えられる、と言います。

また「軽くて強く、腐食しない」という特徴はもちろん、ロール状に丸めた状態で複雑な構造内部に搬入できる点も、貴重な文化財を保護するためには重要な要素だったようです。

耐震補強のイメージを大きく変えた

小松マテーレでは世界的建築家・隈研吾氏設計のもと、カボコーマを内外装に用いて旧本社棟をファブリック・ラボラトリー、fa-bo(ファーボ)として改築しています。特に外側の屋根と地面をつなぐ約1000本のカボコーマは、まるで建物がレースをまとっているように涼しげで、柔らかです。

従来、耐震補強といえば強固で仰々しく、壁に設置された耐震ブレースによって圧迫感をもたらすこともありました。

しかし、カボコーマを使った耐震補強はそのイメージを一新。デザイン性にも優れ、新しいスタイルでの耐震補強を提案できるようになりました。

民間住宅への利用に高まる期待

小松マテーレでは世界的建築家・隈研吾氏設計のもと、カボコーマを内外装に用いて旧本社棟をファブリック・ラボラトリー、fa-bo(ファーボ)として改築しています。特に外側の屋根と地面をつなぐ約1000本のカボコーマは、まるで建物がレースをまとっているように涼しげで、柔らかです。

従来、耐震補強といえば強固で仰々しく、壁に設置された耐震ブレースによって圧迫感をもたらすこともありました。

しかし、カボコーマを使った耐震補強はそのイメージを一新。デザイン性にも優れ、新しいスタイルでの耐震補強を提案できるようになりました。

施工事例:旧富岡倉庫3号倉庫(群馬県)
© Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

「CABKOMAストランドロッド」を巻き取ったロールは約160mで14kgと軽量で、手で持ち運びができる(同等の強度を持つメタルワイヤでは約5倍の重量)。右写真のストランドロッドと鉄筋はほぼ同強度。

小松マテーレ株式会社