愛知県春日井市 愛知県営東高森台住宅PFI方式整備事業
経験を重ねたPFI事業、確かな手応えで受注へ
行政と民間が連携し、公共施設の建設や維持管理、運営などを行うPPP(Public Private Partnership)が注目を浴びています。
そのような中、ZENグループ・株式会社麦島建設(本社・愛知県名古屋市)はこのほど、PPPの手法の一つである「PFI事業」で3件目となる愛知県営東高森台住宅(春日井市)の建て替え工事を受注しました。担当の同社営業部・赤塚翔太氏に話を伺いました。
PFI事業による大規模団地の建て替え
PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、公共施設等の建設や維持管理、運営を民間企業のスキルを活かして行う手法のこと。国や地方公共団体が直接実施するよりも事業コストの削減や、より質の高い公共サービスの提供が見込まれることから、国としても力を入れて推進しています。
従来の公共事業では自治体が設計や建設、運営などの主導権を持ち、民間事業者に単年度ごとに発注していました。一方、PFI方式では自治体の企画に基づいて民間事業者がプランを立て、提案競争に臨みます。審査の結果、最も優れた事業者が発注を受け、複数年度にわたって計画全体を進行します。
財政健全化を目指す愛知県は、積極的にPFI事業を導入してきました。そのような中「民間のノウハウを活用して、シンプルで機能的かつ耐用年数70年を前提とした低廉で良質な住棟への建替を行う」ことを目指し、春日井市の県営東高森台住宅建て替え工事もPFI事業で進めると決定。東高森台住宅は昭和48-49年度と昭和63年度に建設された5階建11棟から構成される大規模団地で、老朽化が懸念される中、まずは2棟を解体し、建て替える計画です。
実績を重ね3件目の受注につなぐ
PFI事業による県営住宅の建替において、麦島建設グループはこれまでにも名古屋市緑区の鳴海住宅と、岡崎市の上和田住宅(第2次)を受注してきました。
「PFI事業に取り組み始めた当初は右往左往していました。2020年には別の県営住宅で競合相手に一歩及ばず、涙を呑んだこともあります。しかしすでに引き渡しが完了した鳴海住宅、そして現在施工中の上和田住宅と受注を重ねるごとに反省点を踏まえ、より具体性の高い提案が行えるようになったと思います」(赤塚さん)。
県営住宅のPFI事業としては3回目の受注となった今回。麦島建設グループは、株式会社麦島建設を代表企業、株式会社ユニホーと株式会社市川三千男建築設計事務所を構成員として、10余人でチームを結成し、入札に参加しました。
赤塚さんは営業事務全般や諸連絡、提案書の作成・発表などを担当。提案書の内容は各方面を網羅した詳細な内容で、作成には膨大な時間とエネルギーを必要とします。「作成や発表は各担当者で分担しました」という赤塚さんですが、とりまとめをする立場として全ての内容を把握し、受注につながるよう努力を重ねてきました。
クリアすべき懸念点
これまでの経験から、さまざまなノウハウは蓄積されていた一方で、今回ならではの難しい課題もありました。
たとえば東高森台住宅の周辺は丘陵地で、これまで実施してきた平地での事業と比べて高低差があります。また隣接する既存住棟には入居者がいて、建替予定敷地の下を通る電気や水道などのライフライン切り回し工事をする必要があったそうで、赤塚さんは「本体工事以外のハードルが多い事業となります」と課題を口にします。
また、事業実施予定期間がおよそ3年半と長期にわたる中、行き来する大型工事車両や作業員の車両によって交通量の増加が懸念されました。赤塚さんらが周辺環境の調査をする中で、事業地の周辺に4つの小学校の学区があり、近隣の道路を多数の児童が通学に利用していることも分かりました。
「周辺住民の皆さんに安心してもらえるよう、特に子どもたちの安全な通学を妨げないよう、大型工事車両が通行する道路を限定するなど配慮を重ねました」(赤塚さん)。
ほかにも、外国人居住者が多いという情報を聞いて調査した結果、住民の割合などから英語とポルトガル語でも工事概要や注意喚起をすることを決定。住民対象の説明会でも、必要に応じて英語とポルトガル語が分かるスタッフを配置することにしました。
地域経済への貢献も
このような細かい配慮に加え、これまでの経験で培った事業目的や基本方針の明確化、環境への配慮、長く住み続けられるようにする具体案などを提示。
愛知県が求める「地域経済への貢献」という点では「競合相手の代表企業が春日井市にあることが分かったので、こちらとしても愛知県内に本社を置く企業のみで構成されることや、県内発注率を高くすること、愛知県産の資材を積極的に使用することなどを全面に打ち出しました」(赤塚さん)。
合計2社による入札の結果、令和5年10月に外部有識者らで構成されるPFI事業者選定委員会が、麦島建設グループを最優秀提案者に選出。この結果を踏まえて愛知県が、同グループを落札者として決定しました。
リスク管理や事業実施体制も評価
選定委員会の講評では提案内容について概ね評価を得られていました。赤塚さんによると「事業の安定性・リスク管理」のところで、社会情勢の変化による資材高騰のリスクなどに備えた点が高く評価されたのが印象に残っているそうです。
また「事業実施体制」については、関連会社でPPP/PFI事業で共同事業実績が多々ある麦島建設とユニホーが今回も強固な連携で建設業務を遂行する一方、設計・工事管理業務を資本関係にない市川三千男建築設計事務所が担当することで、検査の独立性を担保した点などでも高い評価を受けました。
「PFI事業は民間企業に一任される部分が多いため、問題が起きないよう、第三者目線によるモニタリング体制をより重視されているのかなと思います」(赤塚さん)。
さらに未来へ
工期は令和5年12月21日から令和9年7月30日まで。赤塚さんは「高低差や道路事情など、現場条件の厳しい点はありますが、これまでの経験を生かし、監理技術者や設計管理者としっかり連携をとりながら、滞りなく事業が進められるよう尽力していきたいです」と話します。
せっかく莫大な時間と労力をかけて提案書を作成しても、審査の結果、選ばれない可能性もあるPFI事業。同社はその点を踏まえながらも挑戦を続け、着実に経験を重ねています。赤塚さんも、この経験をさらに次のPFI事業受注につなげ、公営住宅以外の事業にも挑戦していきたいと抱負を話してくれました。
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