不動産・建設関係のトレンド
麦島建設の取り組みから見る 建設業の「2024年問題」
働き方改革の一環として2019年から適用されている時間外労働時間の上限規制。建設業に設けられていた5年の猶予期間の終了が目前に迫っています。この機に解決すべき課題とは、それが及ぼす影響とは何か。株式会社麦島建設の実例と共に考えます。
「2024年問題」とは?
2024年4月1日から年間時間外労働(残業)時間の上限が制限されることによって起こるさまざまな問題の総称が「2024年問題」。
ニュースなどでよく取り上げられているのは、トラックドライバーの労働時間の制限により、物流への大きな影響が避けられないという点です。これにより即日配達や送料無料などのサービス廃止、再配達の有料化、置き配の標準化などが進むと言われています。
2024年問題に直面しているのは物流業界だけではありません。規制によって社会に及ぼす影響が大きいため、例外的に猶予が認められていたのが物流、医師、そして建設業。
その猶予期間も2024年3月31日に終了します。特別条項の有無に関わらず、1年を通して常に時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内にしなければなりません。
これまでの限度基準告示による上限は罰則による強制力がありませんでしたが、この改正によって罰則付きの上限が法律に規定され、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられます。
建設業の課題
改正労働基準法により2019年(中小企業は2020年)から時間外労働時間の上限規制が施行されていますが、建設業には5年間の猶予期間がありました。
建設業の時間外労働(休日労働を除く)の上限は、原則として月45時間・年360時間。臨時的な特別な事情があり、労使の合意がある場合でも下記のように上限規制が適用されます。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
- 月100時間未満(休日労働を含む)
- 原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月まで
(ただし、災害時における復旧・復興の事業については、複数月平均80時間以内・1カ月100時間未満の要件は適用しない)
建設業の多くが今直面している課題のなかでも特に深刻とされているのが、人材不足と長時間労働です。少子高齢化により就業者の高齢化と労働人口の減少が進み、国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」によれば、建設業就業者は55歳以上が35.5%、29歳以下は12.0%。建設技能者数では60歳以上が25.7%と全体の約4分の1を占め、29歳以下の割合は全体の約12%程度です。
若年層の離職率を下げるためにも、以前から労働環境、労働時間の改善は求められていましたが、決められた工事期間内で施工を完了しなければならない建設業には、長時間労働が避けられない側面があったことも否めません。この機会に労働時間を含め働き方改革を推し進め、就業者の処遇改善や生産性向上に取り組み、若年入職者の確保・育成を急ぐ必要に迫られています。
建設業の課題
麦島建設では2022年秋から本格的に対策に取り組み始めました。まず現場の残業を減らし休日を増やすため、工期計画をそれまでよりも数ヶ月単位で長く設定した受注を実施。
さらに、物件毎に土曜日休み(休工日)を前提とした工期設定に取り組みました。4週6休から4週8休へと段階的に進め、2024年4月迄に完全週休2日制へと体制づくりを進めています。
しかし、単に工期を伸ばすことで現場の残業を減らすだけでは、生産性が下がってしまいます。そこで新しい力となるのが「建設ディレクター」。ITとコミュニケーションスキルで現場を支援する新しい職域であり、建設現場の業務を事務面からサポートして「現場技術者の負担を軽減し、作業の効率化と就労時間の短縮を図る」、今注目の業務手法
です。
建設業界の用語や知識、工事の流れ、施工計画書をはじめとする各種書類作成など、約2カ月の受講による民間認定資格で、麦島建設ではすでに本社スタッフ数名がこの建設ディレクター資格を取得。建設業に特化した業務を事務職が支援できるよう、これまでの施工管理業務の精査と再分配を実施し、書式の改善、業務フローの変更など、多種多様な角度から改善に取り組んでいます。
例えば、現場監督の仕事を251項目に分類してみると、現場での管理業務は4割で、6割は書類業務と言われます。これまで現場監督ひとりに集中していた業務を本社スタッフが分担、支援することで、負担の集中を防ぐことができます。
改善をはじめてまだ間もないため、定着するにはもう少し時間がかかりそうですが、これまで事務作業に充てていた時間が削減されることで、作業品質の向上や、また、女性活躍の場の拡大としても期待が高まっています。