不動産・建設関係のトレンド
管理会社も居住者も他人事ではいられない マンション管理員の不足問題
かねてから危惧され6月には日本経済新聞も取り上げた「マンション管理員の不足問題」。かつてマンション管理員は定年退職後のシニア世代に人気の仕事でした。近年なり手が不足し、採用後もすぐ辞めてしまうことが多いそうです。一体、何が起きているのでしょうか。
「シニア層歓迎」の仕事だが…
背景にあるのは新築マンションの増加です。国土交通省の調べでは、2022年末現在、既存物件を含むマンションのストック戸数は約694万戸。近年は毎年約10万戸ずつ増えるペースが続いており、マンション管理員の需要が高まるのは必然的と言えます。マンション管理員は一般的には受付対応や施設の巡回・点検、共用部の清掃などが業務内容で、「シニア層歓迎」をうたう代表的な仕事の一つです。
実際、(一社)マンション管理業協会2018年発表の調査では、現場従業員(管理員・清掃員等)の年齢は男女ともに65~69歳が最多で、男性については60歳以上が9割を占めていました。逆に54歳未満の割合は男性2.6%、女性19%に過ぎません。
全産業における就業者の年齢構成は大多数が54歳未満であることから、マンションの現場従業員は明らかにシニア層が多い職種と言えます。
中高年専門の大手転職サイトを見るとマンション管理員の求人は東京都だけで1,000件以上並び、「シニア多数活躍中、セカンドライフにおすすめ」「定年後のお仕事に最適、健康的なお仕事です」などとPRしています。福利厚生が充実し、短時間勤務も可能だとする募集もありますが、需要を満たすだけの応募はなかなか集まらないのが現実です。
前述のマンション管理業協会による調査では、直近1年間の現場従業員の過不足状況も尋ねており、「不足」の回答は通勤管理員「週30時間未満」で60%、同「週30時間以上」で56%でした。
しかし採用状況も厳しくなっており、その理由として多かったのは「給与や時給単価が低いため」、「就職売り手市場であるため」、「60歳定年引上げの影響で、同年代の人材確保が難しくなっている」でした。
求められる負担軽減と待遇改善
総務省の「労働力調査」によると、2022年の就業率は65~69歳で50.8%、70~74歳で33.5%、75歳以上で11.0%。いずれも10年前の2012年
に比べ、働くシニア世代の割合は増加しています。
少子高齢化が進む中で、経済維持のためには高齢者雇用を進め、安定的な労働力を確保する必要があります。国は2021年4月、改正「高年齢者等の
雇用の安定等に関する法律」(高齢者雇用安定法)を施行。継続雇用制度の導入や定年制の廃止など、何らかの措置で労働者が70歳まで就業機会を確
保できるよう企業に努力義務を設けました。
このような背景があり、同じ組織で働き続ける人が増えていると見られます。
ほかの多くの業界でも人手不足は深刻で、シニア世代の求人も増加。魅力的な条件でなければ、選ばれない時代になってきているのです。
人材確保のためには待遇面の改善も必要でしょう。しかし管理員や清掃員の給与を上げるには、マンション管理費を値上げせねばならず、管理組合の承認を得るのが難しいケースも少なくありません。
また近年は、騒音・プライバシー侵害などへの対応や防犯面の強化を居住者から求められることも多く、管理員が気を使う場面が増えているとも言われています。
管理組合を対象にしたマンション総合調査(国土交通省 2018年)で、過去1年間のトラブル発生状況について聞いた設問(複数回答)で最も多かったトラブルは、「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」。内訳を見ると「生活音」38.0%、「違法駐車」19.0%、「ペットの飼育」18.1%、「非共用廊下等への私物の放置」15.1%などでした。
居住者同士のトラブル対応は管理員の業務ではありませんが、管理員に相談すればどうにかしてくれると思っている住民もいて、現場対応に苦慮することもあるようです。
そのため業務負担の多さから、いったん仕事に就いてもすぐ離職するケースが見られます。人手不足解消のため採用開始年齢を引き上げた管理会社もありますが、業務負担の軽減や待遇面の改善が今後より一層求められていくでしょう。
今後はデジタルの活用も
一方、管理員の不足問題をデジタルの力で解決しようという動きも出始めています。
パナソニック株式会社エレクトリックワークス社は、マンション管理会社向けに業務の効率化・省人化を目的とした管理IoT化サービス「モバカン」を提供しています。
これは各住戸のインターホンと管理会社のモバイル端末を連携し、住民へのお知らせ配信や共用施設の利用申請受付、メンテナンス業者への鍵受け渡しといった業務を遠隔対応できるようにしたサービスです。
これにより管理員の業務負担を軽減し、住民にとっても時間を問わず情報の閲覧や利用申請ができ、利便性が向上する、とのこと。
言うまでもなく、適切な管理の維持はマンションの資産価値を高めます。マンション管理員の成り手が不足しているという現状を踏まえ、少ない労働力でもサービスの維持・向上が図れるような工夫が必要なようです。