ZEN CLUB

2023年 10 月号 Number. 558

Interior Idea

interior idea 22 人と木のやさしい関係 〈国産木材〉

古来より日本では庶民の住まいから城や寺社仏閣まで、そのほとんどが木造建築でした。
地震や大規模な火災も少なくなかったにもかかわらず、現在に至るまで日本人は木と共に生きてきた、その理由は何なのでしょうか。
木が人に与える影響、人が木にできることを考えてみました。

インテリアアイディア:interior idea 22 人と木のやさしい関係 〈国産木材〉

世界最古の木造建築は奈良県の法隆寺で、創建は607年頃。670年に一度全焼しますがすぐに再建され、現在まで1300年を超えてその威容を誇っています。使用された建材は、当然その前に伐採されたもの。五重塔の心柱はその年輪年代から594年に伐採された檜であることがわかっています。そのほか日本国民の総氏神と呼ばれる伊勢神宮をはじめ、安土城、二条城、名古屋城など歴史に名を刻む数々の名城も木材によって建てられました。

地震や火災も多い日本では大きなデメリットとなりそうなのに、なぜ木造なのでしょうか。一つは日本の気候にあります。多くの地域が高温多湿である日本で、断熱性・調湿性に優れ、夏は涼しく冬は暖かい木材は快適性や省エネルギーでも非常に理にかなった建材です。二つめは耐久性。木材は一般に伐採後に強度を増し、1000年経っても大きな減退がないと言われます。そして木材の柔軟性を活かした建築方法によって優れた耐震性を実現しました。また、木材は石や鉄より燃えやすくはありますが、熱伝導が遅いため、芯まで燃え尽きるまでは時間がかかります。現代においては不燃材料との組み合わせなどで耐火性もさらに向上しました。

近年の調査では「木材は健康に良い」ということが科学的に証明されています。木の香りでリラックスするというのはよく言われますが、実際に血圧の低下やストレスの抑制、免疫細胞の活性化などが実験の結果に表れています。また、木の感触や視覚情報でも生理的・心理的に影響を及ぼすことが明らかになりました*1。特別養護老人ホームでの調査によると、木材を多く使用している施設では、そうではない施設と比べてインフルエンザの罹患者や転倒で骨折した入居者が少ないという結果も出ています*2

今回取材させていただいたのは、耐久性・防虫性に優れ芳しく美しい、日本建築に不可欠の木材・檜の国有林。とくにこの木曽地方の檜は厳しい生育環境によって鍛え抜かれ、樹齢250年をこえた天然檜は「木曽檜」として建材の最高峰と呼ばれています。

木は木材として私たちの住まいを支えるだけでなく、森林には生態系の保全や二酸化炭素の吸収、土砂崩れの防止など災害抑制の機能もあります。林業は伐採と同時に植樹もし、間伐して生育を助けることも大切な仕事。250年先を見据えながら木を切り、木を植え、林と私たちの暮らしを繋いでいます。

また、伐採時に落とした枝葉をバイオマス燃料として再利用するなど、森林資源の有効活用への取り組みも進んでいます。森林を持続可能な資源として未来の子孫へ残していくために、国産木材を利用する意味を、今一度見直す時かもしれません。

生育を促すためこの国有林では約30%を間伐。南木曽の山は特に急峻で、切り出した木の集材には架線やヘリコプターを使用する。
冬は腰まで雪が積もる厳しい環境で育つため、他の地域よりも生育が遅く年輪が密になる。美しい木目や強靭さは木曽檜の特徴。
加工された木材一つひとつを強度検査し、結果をそれぞれに印字し、厳密に管理する。その強度はコンクリートの2~4倍。
取材協力:株式会社勝野木材 西尾太邦さん(右)有限会社ヤマカ木材 下島仁さん(左)

株式会社勝野木材