ZEN CLUB

2023年 09 月号 Number. 557

<ZENグループの今>プロジェクトing

東京都世田谷区 上北沢 S-Atelier

一流のスペシャリストチームで厳しい制限もクリア

実績に裏打ちされた信頼がつなぐ縁

ZENグループ・株式会社辰(東京都渋谷区)が施工を担当した「上北沢 S-Atelier」新築工事がこのほど完成しました。30数年前、前身の辰建設時代に建築家・安藤忠雄氏の設計で同社が施工を担当した事務所ビルの建て替えとなります。道路の拡幅工事で敷地が縮小される中、今回は株式会社エトルデザイン/高山まさき(東京都中央区)の設計デザインで全く新しい建物となりました。建物の特徴や完成までの経緯について両社にお話を伺いました。

一流の方々とよいものを造る

「打放しコンクリートといえば辰」と言われるように──。設計部門や不動産部門を持たず、ひたすら施工に特化し、“一流の方々と良いものを造りたい”という創業時からの“イズム”を貫き続けている株式会社辰。オーダーメイドならではの「こだわり」を具現化する技術が高く評価され、東京の青山・神宮前エリアなどを中心に多数の建築実績があります。

その同社が施工を担当した「上北沢 S-Atelier」(東京都世田谷区)新築工事が7月に完成しました。

京王線上北沢駅から徒歩1分。電車の車窓からもひときわ目を引く建物のオーナー様は、世界的に有名なデザイナー、杉本貴志氏(1945-2018)が創設した建築設計事務所、株式会社スーパーポテトです。杉本氏は世界中の著名なレストランやバー、ホテルデザインのほか、無印良品のアートディレクションなどでも知られています。

もともと同じ場所に建っていたスーパーポテト社の事務所ビルは建築家・安藤忠雄氏が設計し、前身の辰建設が30年以上前に施工を担当した建物でした。最初から都市計画道路予定地にかかっていたため、いずれ解体するときがくると考え、S造・ブロック造で建築したそうです。

S-Atelier: photo by MASAKI TAKAYAMA

家具の相談からつながったご縁

そして、このたびの上北沢駅高架化と区道の拡幅工事により、敷地面積は約1/3に縮小しましたが、改めて残された土地に地上3階建ての事務所ビルを建築したい、との要望が寄せられていました。

具体的には、内部をできるだけ広く利用し、明るくて風通しの良い空間にしたいこと。2階、3階は将来、事務所・賃貸住宅に変更する可能性があり、単独でアクセスできるようにすること。屋上を利用できるようにすること、といったご希望もありました。

コンペの結果、設計を担当することになったのは、株式会社エトルデザイン。同社を率いるのは、プロダクトから建築まで幅広いデザインを手掛ける高山まさき氏です。高山氏は一枚板の家具ブランド「MUKU-ten.」も手掛けており、スーパーポテト社が所有する一枚板天板の家具について相談を受けました。

この相談のご縁をつないだのが、辰営業部営業チームの窪田幸夫氏でした。結果的に家具についての相談から、新しく建てる事務所ビルのコンペ参加につながっていったことになります。

限られた土地で最大限の要望を叶える

 今回のコンセプトやこだわりについて高山氏は、「都市の中にある角地で、厳しい斜線制限もある中、内部空間を最大限、有効に活用するため、必然的に導かれたボリュームから造形を探究しました。

採光を確保することと、オーナー様の仕事柄、大きな家具や素材の搬出入があるため、大開口を確保することを考えました」と話します。

取締役、岡由実子氏は、「京王線の線路と駅が目の前にあり、騒音や振動が懸念されました。またオーナー様が屋上を使いたい、というご希望もあったことや、辰さんがコンクリート造の施工に優れておられることから、打ち合わせを重ねる中で当初希望されていた木造ではなく、コンクリート造に決定しました。コンクリートの辰さんの技術が生かせるのもよいと考えました」。

最大ボリュームを確保しつつ、各階への直接アクセス、駐車スペース、L型の大きな開口部を構成した結果、複雑な壁構造となりましたが、梅沢建築構造研究所の梅沢良三氏、梅澤恒介氏の緻密な構造設計により実現できたそうです。

駅ホームからも見える外壁のこだわり

ランドマークとも言える特徴的な円筒の内部は螺旋階段で、屋上へのアプローチとなっています。屋上の利用はオーナー様たっての希望で「屋上に上がると視界を遮るものがなく、遠くに木々の緑が見えて気持ちの良い屋上になりました」(岡氏)。

 また、2色で塗り分けた外壁も特徴です。「駅のホームから目の前に見える立地のため、駅から見えるファサードの美しさを意識しました。全ての立面が周囲から見えるため、どのファサードも美しくあるように考えています。

ファサードのたたずまいは、色にこだわりのあるオーナー様と何度も検討し、ダークグレーと少しグリーンの入ったホワイトでコントラストを構成しました」(高山氏)。

施工を担当した辰第一建築部の一級建築施工管理技士、中村勇行氏も「オーナー様が色に関しては強いこだわりをお持ちでした。色加減の調整が難しかったのですが、満足のいく仕上がりとなりました。日光の当たり方によっても色が変化するので、ぜひ注目して見ていた
だきたいです」と話します。

築いてきた信頼を大切に

縮小された敷地に「どのように楽しく豊かな空間を構成できるかを考えた」という岡氏。オーナー様のアイデアも随所に盛り込まれ、一緒に考えて創り上げることができたそうです。

「施工チームとの連携にも恵まれ、電気や設備の方々にもデザインを大切に一緒に考えていただき、サッシュや手すりのおさまりなど、ディティールの施工も含めてレベルの高い工事になったと感謝しています」(高山氏)。

「30数年前に担当させていただいたオーナー様の建て替え工事に再び参加させていただき、光栄に感じています」と辰の窪田氏も感慨深げです。

「今回のように、旧会社時代に施工したお客様、そして設計者の方々とのつながりを今後も大事にしていきたいと思います」(窪田氏)。

また中村氏は「私も前身の会社から働いている一人として、辰で大事にしてきているブランドや信頼を大切にしていきたいです」として、「腕の良い職人が高齢化していて、人材不足は今後ますます問題になってくると思います。一人前になるには10年ほど時間はかかります。技術を伝承し、魅力的な職人が増えることを願っています」と話していました。

オーナー様と設計、施工チームが一丸となって取り組んだ今回のプロジェクト。上北沢駅周辺を訪れた際はぜひ注目してご覧ください。

株式会社辰 営業部 窪田幸夫氏(左)、第1建築部 中村勇行氏(右)
建築施工の専門店である建築屋「辰」株式会社 辰
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