ZEN CLUB

2023年 09 月号 Number. 557

Interior Idea

interior idea 21 アート作品を生かすアート 〈フランス額装〉

インテリアの主役となるような大きな絵画から、旅先で買ったポストカードなど、 飾りたいと思いながら「どこに」「どんなふうに」と考え出すと、これがなかなか悩ましかったりします。 「額装」は作品の脇役でありながら、その魅力を広げる力を持っている── フランス額装を手がける向井理依子さんにお話を伺いました。

インテリアアイディア:interior idea 21 アート作品を生かすアート 〈フランス額装〉

絵画や書を表装する文化は日本にも古くからありました。中国から伝わった掛け軸が日本独自の進化をし様式化された一方で、江戸時代には安価な浮世絵を表装したり、庶民の暮らしをも彩りました。

その後は生活スタイルの西洋化に伴って床の間や和室が減少。現代の日本の住宅に取り入れやすいのは、やはり掛け軸よりも自由な西洋の額装です。

リビングや玄関、廊下や階段にも大小のアートが飾られています。しかし好きなアートを飾るのに額装までこだわった、オーダーしたという人は多くないかもしれません。アートは作品が映える額装で展示されますので、額ごと買ってそのまま飾るというのも安心できる一つの方法です。

ただ、その絵をどんな部屋に飾ってどんな空間にしたいのかは、そこに住む人にしかわかりません。作品の魅力を最大限に引き出しながら、その空間に馴染ませる、馴染ませながらも作品を活かし、空間の印象を左右する。額装にはそんな力があります。

「額装は、作品を囲むマットとフレームとなる額縁をコーディネートする技術です。日本では額縁に目が行きがちでマットはシンプルなものが多いのですが、フランスはこのマットの部分をデザインするというジャンルがアートとして認知されていて、国家資格もあり、
職業として確立しているんです」

システムエンジニアとして勤めていた会社を辞め、単身フランスへ渡り額装の技術を学んだ向井さん。最初は語学学校に通いながら額装店で働いたり、パリでデザインや美術史などを学びながら徹底的に技術を磨いて国家資格を取得。3年後に帰国します。

「日本では規格サイズの額縁に合わせて仕上げることが多いですが、フランスでは作品からマットの大きさやデザインを考え額縁を合わせます。テクニックを駆使してマットを装飾しますが、それは作品を尊重し、より良く見せるため。額装はあくまでも脇役で、作品と
一体となった時が額装本来の意義だと思っています」

アーティストの個展などに作品を額装することもありますが、個人のお客様からの依頼も受けている向井さんは、部屋のどこに飾るのか、壁の大きさ、家具、好みのインテリアなどを確認するほか、作品の持つ背景なども聞いた上で、額装の提案をしています。

「どこに頼めばいいのかわからなかった、とおっしゃるお客様もいらっしゃって。日本でももっと額装を生活の一部として楽しんでいただきたいですね」

人の性格を動物に例えて擬人化した19世紀半ばの風刺画をオリジナルのデザインで額装。
マットや額縁は色も素材も無限大。最高の組み合わせを追求して自らデザインや着彩もする。
100年以上前の植物標本をカリグラフィの美しいラベルとともに額装。同時代の素材を使うことも。

向井 理依子 むかい りえこ

  • art d’encadrement( アールダンカードルモン)
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