ドールハウスの文化は、16世紀ヨーロッパで貴族階級の教育玩具やコレクションとして大きく花開きました。

特に有名なのが「メアリー王妃のドールハウス」（1924年）。当時最高峰の芸術家や職人たちが集められ、内装や家具はもちろん、実際に弾を撃てるショットガン、水を流せるトイレ、電動エレベーターも設置され、さらに図書室に収める本のためにコナン・ドイルら170名もの作家が寄稿しました。

このドールハウスが1/12の縮尺だったことから、以降、1/12スケールがミニチュアの標準とされるようになります。

「素敵な家具や壁紙、床材を見たら“こんな好きなものに囲まれた家に住んでみたい”と思いますよね。美しいピアノを置きたいな、素敵なお店で働くのもいいなとか、頭に思い描いた夢の空間を作り出せるのがミニチュアです。1/12サイズなら何台ピアノを置いても、家を何軒建てても、場所も取らないし誰にも怒られません（笑）」（ヒナぞーさん）

作品の中でも特に評価が高い楽器のミニチュアは、実物から採寸し専用の工作機械まで自作して、できるだけ本物に即した素材や構造で制作しています。

そんなヒナぞーさんは実はピアノ修復師の顔も持ち、本物の楽器修復にも従事しています。

そのきっかけも「ピアノのリアルなミニチュアを作りたい」と思い見学に行ったこと。19世紀のフランスピアノや古い足踏みオルガンが並ぶその工房ですっかり魅了され、気づけば弟子入りを志願していたそうです。

「ピアノは約1万個ものパーツでできていて、中身はまるでミニチュアの塊なんです。鍵盤の重さや高さも精密さが要求されるため、その計測器も作りました。

この仕事に活かせるミニチュアの技術は多く、今では職人として精度を要する仕事を任せてもらえるようになりました」

長い歴史のあるドールハウスやミニチュアの世界は近年、SNSの影響もあってコレクターや作家志望の人も急増、ヒナぞーさんのもとにもさまざまな依頼があるそうです。

「今はピアノ修復の仕事と展示会に出展する作品の制作で忙しく、オーダーのご依頼を受けられない状況ですが、いずれは受注制作や教室などにも取り組めたらと思っています。まずは作品を楽しんでいただけたら嬉しいです」