不動産・建設関係のトレンド
国が土地を引き取る「 相続土地国庫帰属制度」
4月27日から開始する新しい制度
「実家の土地を誰も相続しないので手放したい」「山林を相続したものの利用も売却もできず困っている」──そんな声も耳にします。これまでも不動産を相続したくない場合には「相続を放棄する」という選択肢がありましたが、その場合は相続財産すべてを放棄する必要があり、不要な土地や建物だけを選択的に放棄することはできません。
また、相続放棄をしても、他の相続人が管理を始められるようになるまでは管理義務を負うことになります。
しかし、2023年4月27日から施行となる「相続土地国庫帰属制度」により、相続した不要な土地を国に引き取ってもらうことが可能になりました。相続土地を国庫に帰属させれば、後述する「負担金」として10年分の管理費用を払う必要はありますが、管理義務はなくなります。
背景には所有者不明土地の増加
所有者不明土地とは「不動産登記簿によって所有者が直ちに判明しない土地」または「所有者が判明しても所在が不明で連絡がつかない土地」のこと。
転居や相続の際に登記(名義変更)が行われず長期間放置されると、所有者の特定が困難になり土地の管理不全により近隣に悪影響を及ぼす恐れがあります。
また、公共事業や民間取引における利活用が阻害されることも大きな問題に。高齢化が進む中、全国の所有者不明土地の割合は現在約24%にのぼります。このままでは所有者不明土地の問題がさらに深刻化すると見られ、2021年に以下の3点から法制の見直しが行われました。
- 不動産登記制度の見直し
- 土地利用に関する民法の見直し
- 相続土地国庫帰属法の創設
これまで任意だった相続登記の申請が義務化され、新設される相続土地国庫帰属制度と合わせて所有者不明土地の解消を目指すというものです。
メリットの一方で厳しい条件も
相続土地国庫帰属制度によって、悩ましい問題が解決する場合もあれば、そう簡単にはいかないケースも少なくなさそうです。
メリットとデメリットを見てみましょう。
1.引き取り手を自分で探す必要がない
不要な不動産を手放す際、難しいのが引き取り手を探すこと。自分が不要な不動産は他の人も不要な場合が多く、買い手もなかなか見つかりません。しかし相続土地国庫帰属制度は、条件を満たせば国が引き取りを拒否することはできないので、引き取り手を探す必要がありません。
2.引き取り手は国なので安心
親族が昔から使用してきた土地を、よく知らない人に売るのは不安なものです。また引き取り手がきちんと管理しないと地域から反感を買うかもしれません。国有地になれば管理するのは国のため、安心して引き取ってもらえます。
3.農地や山林も引き取りの対象になる
農地法で取引が制限されている農地は、手放す際に農業委員会の許可が必要など引き取り手が限られます。山林は場所や境界が不明だったり、林業者の減少、災害リスクなどが理由で引き取り手を探すのが大変。しかし相続土地国庫帰属制度では、農地や山林も宅地などと同じように審査されます。
4.国への損害賠償責任が限定的
通常、土地の売買契約や贈与契約などを締結したあと土地に欠陥があった場合、手放した側が法的責任(契約不適合責任)を負うことがあります。現状有姿売買という取引形態もありますが、その場合代金を低く押さえられる傾向があります。相続土地国庫帰属制度では、条件に合致しない土地であることを隠していたなどの場合以外、損害賠償責任が追求されることは限定的です。
5.時間と手間がかかる
申請できるのは相続(または遺贈)によって土地の所有権を取得した所有者のみ。それ以外で土地を取得した人は申請できません。所有権を複数人で共有している土地は全員の合意が必要です。また土地については要件に1つでもあてはまれば国庫に帰属させられません(表参照)。承認には国の審査が必要で、現地調査が必要になるものもあるため、審査には時間がかかります。
6.費用がかかる
審査手数料のほかに負担金として10年分の管理費用が必要になります。基本は20万円とされていますが、市街化区域または用途地域に指定されている地域内の宅地や農用地、土壌汚染の可能性のある土地など、例外が多いため注意が必要です。
条件もかなり厳しく費用も高額ですが、不要な土地だけを限定して処分できる「相続土地国庫帰属制度」。維持管理が負担となる相続土地については検討してみても良いのではないでしょうか。
■国庫帰属法の申請却下・不承認要件
申請却下要件
- 建物が立っている土地
- 担保権や収益につながる権利が設定されている土地
- 通路等第三者による利用が予定されている土地
- 有害物質で汚染されている土地
- 境界の不明な土地やその他所有権の範囲等で争いがある土地
不承認要件
- 崖にあり、管理に過大な労力や費用がかかる土地
- 管理作業を阻害する有体物(車や樹木他)がある土地
- 管理・処分を阻害する有体物が埋まっている土地
- 隣地所有者と紛争が起きていることで、管理が困難な土地
- その他管理に多くの時間・費用・労力を必要とする土地