Interior Idea
〈木と鉄の室内道具〉16 素材の年月を味わう
光が当たり、人の手が触れ体温が伝わり、ものに擦れて、家具や道具は少しずつ変化します。
それはそこに暮らす人との記憶であり、そのものに刻まれた歴史でもあります。
素材の色や手触りを時間の変化とともに味わう家具や道具を作る「枯白 KOKU」乾 喬彰さんにお話を伺いました。
音楽のサブスク、ファッションのレンタルやカーシェアをはじめ、身の回りのほとんどのものが「所有しない」で揃う時代。今や家具や住まいにもサブスクサービスが登場しています。
常に最新機能や流行を取り入れたり、ミニマムなライフスタイルも魅力ですが、選りすぐりの家具と共に長い年月を過ごし、我が家の中に馴染んでいくその変化を楽しむことも住まいや暮らしの味わいです。もしもレンタル中の家具を傷つけてしまったらネガティブな気持ちになりますが、我が家の家具ならそれも家族の歴史となります。
「『枯』の字には人やものが練れて深みが増す、円熟した深い味わいが出るという意味が含まれています。『白』は新しさやものごとがはじまる意味もあり、
『枯白』という言葉は辞書にはありませんが、作品が経年の中で使う人のものとして味わい深く枯れ、まっさらな表情になればという意味を込めています」
乾さん夫妻が最初に工房を構えたのが2009年。日常に馴染む「室内道具」として、木と鉄を使用した家具やハンガーなどの製作から始まりました。
以来、革や真鍮、ガラスなど素材の幅も広げ、異素材のそれぞれに異なる自然の表情を活かし、変化を楽しめるものづくりを続けています。木の色あせた趣や、
皮や節の表情に心を動かされ、そのまま使うことも。
「素材は、現在の状態を美しいとして採用する場合と、使い込んだ先の経年変化を見越して選ぶ場合があります。木材も色が濃くなっていくものもあれば白っぽくなるものもあり、加工をすることでよさが活きるのか、経年変化を活かした方がいいのか、木と向き合って考えるのは醍醐味でもあります」
物質が時と共に古びることを「経年変化」と言いますが、木や鉄、革などが使い込むほどに馴染み艶を増す様を「経年美化」と呼ぶ人も増え、良いものを丁寧に長く使うことが今また見直されています。
「私たちは五感を使って日々様々な要素を取り入れて生きています。日頃見る景色や触れる素材は、食事や音楽と同じように重要な要素と思います。美しいと感じる素材の質感や形をそのまま無理なく形にしたいという想いは、それを生み出す私たち自身が自然を求めているということなのかもしれません」
枯白 KOKU
- 兵庫県姫路市四郷町見野258-9
- https://www.kokuproducts.com/